
中国古代の動乱を生き抜く知恵として語られる成語に「狡兎三窟(こうとさんくつ)」がある。ずる賢いウサギ(狡兎)は、3つの逃げ場の穴(三窟)を用意しているということから、身の安全を守るためには複数の避難場所や策略を用意するとよいという意味になる。
悪人はずる賢く逃げ回るという意味合いもあるが、多少のずる賢しさがなければ現代のビジネスはやっていけない。ビジネスパーソンは、3つくらい気の休まる安全圏を持つようにするとよいだろう。
心身が休まる3つの安全圏では、(1)家庭・恋人、(2)信頼できる交友・知人、(3)無心になれる趣味、といったところだろう。それにしても、なぜ3つなのだろうか。それがなぜ、ずる賢い選択となるのだろうか。
1つの安全圏や1つの安全策・防御策にすべてを賭けないよう、リスク回避策を複数持つことが、少しずる賢しこく見えてしまうからかもしれない。「仕事が大事か、家庭が大事か」「残業が大事か、恋人とのデートが大事か」、そうした二者択一の状況ではどちからを選ばなければいけないが、心にはもう1つくらい選択肢が欲しい。
そのためにある程度時間を割いて、3つくらい心身の逃げ場を用意して、メンテナンスしておくことが大切になる。すでに2つはあるけど、3つ目はないという人は、もう1つ心身の逃げ場を探しておこう。
成語「狡兎三窟」の由来は、中国が秦の始皇帝によって統一される以前の動乱期、戦国時代(前403〜前221)の「戦国策」という書物だ。ずっと後代の、明代末期に書かれた処世術の聖典ともいえる「菜根譚(さいこんたん)」でも、処世の秘訣(ひけつ)を「身を蔵するの三窟なり(保身のための三窟である)」としている。
菜根譚では三窟の処世術をなぜか4つに分け、(1)才能を見せびらかさない(巧を拙に蔵し)、(2)出しゃばらないことで人に認められる(晦を用いて明らかにし)、(3)俗世にまみれても流されない(清の濁に寓し)、(4)能力が生かせる時まで勉強しておく(屈をもって伸をなす)、としている。
利発さや即効が求められる現代にはそぐわない処世術だとも言えるが、年を取るにつれ、そうかもしれないなと納得する部分も出てくるだろう。古典の知恵は人生とともに深めていくとよい。
テクニカルライター。1957年東京生まれ。国際基督教大学卒業後、同大学院で言語学を学ぶ。1990年前半友人と翻訳・テクニカルライティング事務所を経営。1994年末、インターネットによる遠隔地業務可能に合わせフリーランスとなり沖縄に移住。2002年東京に戻り現在に至る。「日経クリック」(現在休刊中)で10年間Q&Aを担当。日経トレンディネットネットで起きてる最新トレンド、およびGoogle調査隊のコラムを執筆中。著書、『ブラウザのしくみ』(技術評論社)、『Ajax実用テクニック』(ナツメ社)など。





