乗り移り人生相談

2010年1月14日

【33】テレビを見ながら独酌をしているとバカになる

Q
1人で記憶をなくすほど酒を飲み、自己嫌悪に陥ります
いつも楽しく拝読しております。おかげで最近は、今先生、シバレン先生、開高先生の作品も手に取るようになりました。さて、相談です。独身一人暮らしなので、一人酒が多いのですが、記憶がなくなるまで飲んでしまうことが度々あります。そして、酔っぱらっていろんなところへ電話をしたりして、翌日ものすごい自己嫌悪に苛まれます。そのときは、次からは気をつけようと思うのですが、気づくとまた同じことをやっています。格好良く一人酒を愉しむための良きアドバイスをお願いします。

(29歳・男性)

シマジ 相談者は開高さんの作品を手に取るようになったそうだから、開高さんの晩年の一人酒を教えよう。開高さんはよく一人で飲んでいたからね。

 文豪は週に3回ほど、夕方になるとプールに出かけた。「バックペインが楽になる」と言っていたね。今考えると、背中の痛みは癌が原因だったのだろう。最初は300mくらいしか泳げなかったらしいが、続けるうちに毎回2000mくらい泳ぐようになった。

 いつもプールに向かう途中の肉屋でコロッケを10個くらい買っていた。泳ぎ終え9時過ぎには自宅に戻りすぐに床に就く。そうすると夜中の12時半頃には目が覚める。そこから闇シリーズを執筆しようとして原稿用紙に向き合うのだが、悲しいかな文豪の万年筆の先にはもう天使も悪魔も宿らない。

 文豪はおもむろに書棚からウォッカの瓶を取り出し、大きなグラスに注ぎ込む。「何も足さない、何も引かない」を地で行く飲み方で、水も用意せず、なみなみと注いだストレートのウォッカをぐびぐびと干していく。やがて泥酔して意識をなくして眠り、翌朝7時か8時頃に目を覚ます。

 その頃、(詩人の)牧羊子夫人とは冷戦状態だったから、朝飯など用意されていない。昨晩買ったコロッケを食いながら、その辺りに置いてある冒険小説を読む。編集者が来ることもあれば、来ないこともある。そして夕方を迎え、文豪はまたプールに出かけてコロッケを買うんだ。

ミツハシ 聞いているだけで喉のあたりが苦しくなってきます。

シマジ シバレン(柴田錬三郎)さんも今東光大僧正も独酌はやらなかった。もともと、酒をそれほど飲まない人だったからね。だが、開高さんは酒が強く独酌の人だった。相談者の記憶を失う独酌は、開高さんの、我が身を痛めつけるような苦しい独酌とは違うだろう。相談の文面からは、何かに押しつぶされそうになっている感じはしない。俺は別段、自己嫌悪など感じなくてもいいと思うがね。

 俺の知り合いに、この相談者のように酔うと電話をかけたがる男がいるんだ。随分昔だが、一緒に泊りがけでゴルフに行ったときに、この男は酒屋で買い込んだ日本酒の「あらばしり」をうまいうまいと飲み続け、べろべろに酔っ払い、次々と東京在住の女友だちに電話をかけ始めた。「実は俺、一関(岩手県)にいるんだ。今からクルマを飛ばして来いよ」といった調子で、訳の分からないことをわめき散らすんだ。

ミツハシ 私にもおんなじことをやる先輩がいます。あれ迷惑ですよね。

シマジ いいんじゃないか、それくらいは。

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著者プロフィール

島地 勝彦(しまじ・かつひこ)
島地 勝彦 1941年生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」の編集長として同誌を100万部雑誌に育て上げる。その後、「PLAYBOY」編集長、「Bart」創刊編集長などを務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生、荒木経惟をはじめとする錚々たる面々と画期的な仕事を重ねてきた伝説の編集者。2008年11月集英社インターナショナル社長を退き現在はコラムニスト。シガーとシングルモルトとゴルフをこよなく愛する。「人生は冥土までの暇つぶし」だと思っている。

このコラムについて

乗り移り人生相談

 これはただの人生相談ではない。何しろ今は亡き昭和の文豪たちが天国から降臨し、ある男に憑依してあなたの悩みに答えるのだから。
 その文豪たちとは次の三人である。眠狂四郎の生みの親、不羈の想像力で時代小説の新地平を拓いた柴田錬三郎氏。天台宗大僧正にして参議院議員そして直木賞作家…天衣無縫の怪物、今東光氏。世界を股にかけ珠玉の文章を残した行動派作家、開高健氏。彼らの言葉を口寄せするのは「週刊プレイボーイ」の編集者時代に、三文豪を回答者に据えて人生相談コーナーを担当した島地勝彦氏だ。柴田錬三郎氏には息子のように、今東光氏には孫のように、そして開高健氏には弟のように可愛がられた島地氏は、人生相談コーナーを通じて門前の小僧よろしく人生の様々な奥義を教えられた。
 島地氏は言う。「従って、シマジの言葉はシマジの言葉にしてシマジの言葉にあらず。剣豪作家シバレンの、今東光大僧正の、開高文豪の言葉なのである。心して聞けい」

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