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潜在“脳力”を活かす仕事術

【最終回】ヒトの脳は、積極的に学ぶ

Associe

 さて最終回である。前回前々回では、身体感覚や身体運動がほかの目的に転用されたり、内面化されたりする例を紹介した。身体の痛みを感じるための神経回路が「心が痛む」状況でも活動することや、苦味と同じ表情システムが社会的な嫌悪の時にも作動していること、そして、眼球を左右に動かすという動作が、足し算や引き算といった計算に関係していることなどを取り上げた。

 脳を調べると、行動や心理作用に一見関係のない脳回路が共用されているという例にしばしば出くわす。こうした事実は異なる脳機能が系統発生的な根源を共有していることを示唆している。

 おそらく生物は、進化の初期の過程で痛みや眼球運動などのごく原始的な生理感覚や基本運動を作り出していて、これが極めて効果的で汎用性の高いシステムであったために、後にほかの目的に応用したのだろう。

 ヒトの高度な社会性を生み出すためのモラルや疎外感を制御する神経回路を、まったくの「無」から作り上げるには相当な労力を要するに違いない。ならば、すでにある神経システムをリサイクルする方が開発コストは少ない。痛覚回路を「社会的痛み」の感受に転用するとは、なんとも巧妙な応用を開発したものだと感心したくなるが、生物学的にはこの方が理に適っていたのだろう。

 このように、本来は別の目的で機能していた生物ツールをほかの目的に転用することを「コオプト(co-opt)」と呼ぶ。高次で複雑に見える脳機能は、意外と単純な神経システムがコオプトされたものと考えてよいだろう。

 ここで再び、「脳」が何のために存在しているのかを考えてみよう。
 現在では脳は高度な情報処理を実行する特殊な組織として機能している。しかし、ごく初期の生物に限って言えば、外界の情報を処理して、適切な運動を起こす「入出力変換装置」にほかならない。餌ならば近寄る、敵や毒ならば避けるといった、単純だが生命にとって大切な反射行動を生み出すマシンだ。つまり当時の脳は、とことん身体感覚(入力)と身体運動(出力)の処理に特化した組織であった。

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