
茶道の心を表す言葉に「一期一会(いちごいちえ)」がある。「一期」は一生、「一会」は出会い。そこで「一生に一度の出会い」という意味になる。お茶席でお茶をいただく出会いを一生に一度だけの機会と心得えなさい、ということだ。
そこから、日常の人との出会いでも毎回真剣に向き合いなさいという教えにもなる。立派な教えだが、日常生活や毎日の職場でそこまで思い込むのはなかなか難しい。むしろ、過ぎ去った人を思い出す時に、じんわりと「一期一会」が理解できる。
職場は昨日も今日も同じことの繰り返し。出会う人も同じ顔ばかり。明日もきっと同じ。そう思っていても、3年、5年、10年という期間で見ると自然に入れ替わっていく。今は顔を合わせなくなった友人や同僚、すでに鬼籍に入られた恩師など、思い出の人は増えていく。
当時のごちゃごちゃとした日常も月日が流れていくと、心のなかに人との出会いの印象が自然に整理されて沈殿してくる。当時はいやな人だったなと思った上司の教えが、振り返って見ると現在自分が習得した技術の基礎になっていることがある。
逆に良い人だったなと当時は思っていても、今の自分からはどこが良かったのかピンとこないこともある。人との出会いを振り返って思い出す時、その印象が当時の印象と違うのはなぜなのだろうか。不思議に思える。
他人の良さや悪さといった印象は時を経ると変わる。ただ変わるだけではなく、整理され洗練された印象になって自分の心に残る。そこから自分の人間観も豊かになる。
この不思議を逆に考えてみる。他人に接しているこの自分は、その人が3年後、5年後、10年後立った時、どのような思い出になってその人の心に沈んでいるのだろうか。
たぶん、ほとんどは自分のことなんか忘れてしまうだろう。自分だってほとんど忘れているのだし。それでも振り返って心に忘れがたい印象を残す人には、その人の特質がある。優しさや賢さかもしれない。うまく言葉では言い表せない。
でも、その印象が確実に自分に残るようになれば、その特質を理解したことになるし、理解した分、その特質の一部を自分も学び取っていることになる。過ぎ去った出会いを振り返ることで、優れた人の特質を学び直すことができる。



テクニカルライター。1957年東京生まれ。国際基督教大学卒業後、同大学院で言語学を学ぶ。1990年前半友人と翻訳・テクニカルライティング事務所を経営。1994年末、インターネットによる遠隔地業務可能に合わせフリーランスとなり沖縄に移住。2002年東京に戻り現在に至る。「日経クリック」(現在休刊中)で10年間Q&Aを担当。日経トレンディネット











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