<今週のロスジェネ既婚男>
年齢:30歳
結婚年齢:30歳
仕事:医師
世帯年収:1300万円
家族構成:妻、娘
京都から電車で2時間ほどかかる山間の町に、榎本光博(仮名、30歳)が勤務する病院がある。僕が手土産をぶら下げて訪ねて行くと、白衣とマスク姿の榎本が階段を下りてきた。私服の時はチャラチャラしたお兄ちゃんという印象しか受けないのだが、さすがに医者らしく見える。
「遠いところをよく来はりましたなあ。とりあえず白衣を着てください。院内を案内しますわ。東京から見学に来た医学部生だと言えば、診察にも立ち会えますよ。派手な怪我をした急患が来たら、手術も見せられるんだけど…」
え? そんなことしていいのかよ。ノリが軽いなあ。なぜか僕まで白衣に着替え、2人でのんびりと院内を回った。医局(医師の事務室)でお茶を飲みながら関西の風俗店について意見交換をしていると、榎本の携帯が鳴った。
「子どもがジャングルジムで頭を打った? うんうん。10分後ね。分かった。準備しといてね」
榎本は落ち着いた表情で携帯を切った。大丈夫? 応急措置なら自分がやるし、意識がなかったら脳外科のいる大病院に移送するだけなので簡単だと答える。
「飯を食う前にちょっと付き合ってください。1時間もかかりませんから」
担ぎこまれた子供は小学校低学年の男の子だった。額がぱっくりと割れて血がドクドク流れて、泣き叫んでいる。榎本は穏やかな声で付き添いの大人に状況を聞き、縫合をする判断を下した。
子供は「痛い! 怖い! お母さんが来るまで縫わんといて!」と絶叫するが、榎本は「待ってたら傷が固まってあとに残るよ。麻酔するから大丈夫。イタないよ」と優しいけれど毅然とした調子で声をかけ、看護師にビシビシ指示を出し、さっさと縫合をしてしまった。子供の次に冷や汗をかいたのは、間違いなく僕だろう。
縫合が済み、CTスキャンとレントゲンを撮る。幸いなことに脳にはダメージがなかったようだ。榎本は駆けつけた母親に治療内容を説明し、術後の注意点を伝えた。医局に戻って白衣を脱ぐと榎本は勢いよく言った。「さあ、うまい鶏肉を食べに行きましょ! あの店は刺身もうまいですよ〜」
治療の後で、よく肉を食べる気になるね…。とにかく榎本の車で店に向かい、食事しながら話を聞くことにした。
治療で泣く子供からもエネルギーをもらう
大宮(以下、O) 悪いね、俺だけビールを飲んじゃって。
榎本(以下、E) いいんですよ。僕はアルコール、ほとんど飲めませんから。その代わり食べますよ。ガンガン頼みましょう。
O それにしてもさっきはびっくりしたよ。鮮やかなお手並みだったね。
E いやあ。整形外科ならもっと上手にやるんでしょうけどね。まあ、僕の縫合でも子供だから痕には残らないと思います。
O 泣き叫んでいるのをなだめるのも大変だよね。
E いや。あれは気になりません。子供は大好きなので、むしろエネルギーをもらったと思っています。僻地医療のほとんどはお年寄り相手なんです。診察しただけでもエネルギーを奪われて自分の寿命も縮まる気がしますよ(笑)。
O 確かに、看護婦さんたちも子ども相手で何だか楽しそうだったね。
E でも、困るんですよねえ。意識が低い人が多くて。勤務中に夕食のおかずの話とかをペチャクチャしゃべったり。もっと大きな病院だと、婦長以下の序列がしっかりしていますからピリッとしてますよ。勉強会も頻繁に開かれるし…。














