乗り移り人生相談

2009年9月24日

【19】日本一短くて美しい会話だねと開高さんは言った

Q
緊張のあまり、顔が赤く染まり声が震えてしまいます
私は自分でもイヤになるくらい、あがり症です。取引先のエライさんはもちろん、上司(部長)と話す時も、緊張のあまり頭の中は真っ白になってしまいます。会議で発言する時などは、心臓は早鐘を打ち、顔は真っ赤に染まり、声の震えが止まりません。女性と話をする時も同じ症状に見舞われます。このままでは、会社の中で馬鹿にされ続けるでしょう。結婚もできないかもしれません。生きていく自信を失いそうです。どうしたら、もっと普通に話せるようになりますか。助けてください。

(29歳男性)

人生の勝利者とは己のコンプレックスを武器に変えられた人間だ

シマジ 29歳の相談者よ、君はどもる苦しさを知るまい。俺はどもりなんだ。頭に浮かんだ素敵な表現が、音になってくれないんだ。これは辛いぞ。ちゃんと言葉が出てくるんだから、声が震えたり、顔が赤くなったりするくらい何でもない。顔を真っ赤にして一生懸命しゃべれば、優しい正直者に見える。世渡りに便利なくらいだ。

 こうしたコンプレックスは多かれ少なかれ必ず誰にでもある。そして、人生の勝利者というのは己のコンプレックスを武器に変えられた人間だ。

アソシエ シマジさんはどんなふうに武器にしているのですか。

シマジ 女と食事をするだろ。ずっと口説いていって最後にこう締めくくる。

 「お、俺が、きっ、君をどれくらい素敵だと思っているか、も、もっともっと君に知ってもらいたい。伝えたい言葉は頭の中に渦巻いているんだが、それが、し、舌の上で死んでいくんだ。ざ、残念でならないよ」

 これで何人もの女が落ちた。

アソシエ そこまで行くと武器というより凶器ですね。

シマジ インタビュアーとしても、どもることは強みなんだ。俺がどもりながら話すだろ。そうするとインタビューを受ける側は安心する。特にインタビュー慣れしていない人は、うまく自分の思いを伝えられるだろうかという不安を抱えているから、インタビュアーに立て板に水のごとく話されると圧倒され萎縮してしまう。俺のようにつっかえながら訊いてくる相手だと、上手に話さなければというプレッシャーから解放されて、気楽に話せるようになるらしい。

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著者プロフィール

島地 勝彦(しまじ・かつひこ)
島地 勝彦 1941年生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。「週刊プレイボーイ」の編集長として同誌を100万部雑誌に育て上げる。その後、「PLAYBOY」編集長、「Bart」創刊編集長などを務める。柴田錬三郎、今東光、開高健、瀬戸内寂聴、塩野七生、荒木経惟をはじめとする錚々たる面々と画期的な仕事を重ねてきた伝説の編集者。2008年11月集英社インターナショナル社長を退き現在はコラムニスト。シガーとシングルモルトとゴルフをこよなく愛する。「人生は冥土までの暇つぶし」だと思っている。

このコラムについて

乗り移り人生相談

 これはただの人生相談ではない。何しろ今は亡き昭和の文豪たちが天国から降臨し、ある男に憑依してあなたの悩みに答えるのだから。
 その文豪たちとは次の三人である。眠狂四郎の生みの親、不羈の想像力で時代小説の新地平を拓いた柴田錬三郎氏。天台宗大僧正にして参議院議員そして直木賞作家…天衣無縫の怪物、今東光氏。世界を股にかけ珠玉の文章を残した行動派作家、開高健氏。彼らの言葉を口寄せするのは「週刊プレイボーイ」の編集者時代に、三文豪を回答者に据えて人生相談コーナーを担当した島地勝彦氏だ。柴田錬三郎氏には息子のように、今東光氏には孫のように、そして開高健氏には弟のように可愛がられた島地氏は、人生相談コーナーを通じて門前の小僧よろしく人生の様々な奥義を教えられた。
 島地氏は言う。「従って、シマジの言葉はシマジの言葉にしてシマジの言葉にあらず。剣豪作家シバレンの、今東光大僧正の、開高文豪の言葉なのである。心して聞けい」

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