ビジネスの常套句に「○○は必要条件だが十分条件ではない」という言い方がある。例えば「資金は必要条件だが十分条件ではない」というように。「必要条件」や「十分条件」といった数学や論理学の用語が出てくるので難しそうだが、単に「ほかにも必要なものがある」というだけのこと。特に「君が気がつかない条件があるのだ」といった含みがある。
この常套句はその程度の理解で使いこなせるが、ここで「必要条件」と「十分条件」を整理して理解しておくと、企画や調査などに役立つ。
「必要条件」と「十分条件」とは何か。数学では、命題「p⇒q(pならばq)」が真である時、「pはqであるための十分条件」であり、「qはpであるための必要条件」であると定義される。これで分かる人もいるが、たいていの人は分からない。
pやqに文章を当てはめるとさらに分からなくなる。pを「ガソリンが自動車に入っている」、qを「自動車が走る」とし、「ガソリンが自動車に入っているならば、自動車が走る」を真とする。すると、「ガソリンが自動車に入っていることは、自動車が走ることの十分条件」、「自動車が走ることは、ガソリンが自動車に入っていることの必要条件」となる。ほとんど意味不明だ(ここで「それは悪い例だ」と分かる人は論理的なセンスがある)。
「必要条件」と「十分条件」については、こう考えてみるとよい。「自動車を走らせるにはガソリンを入れておく必要がある」のだから、「ガソリンを入れておくこと」は「自動車を走らせること」の必要条件だ。しかし、ガソリンを入れただけでは自動車は走らない。ほかにも「ドライバーが免許証を持っている」といった必要条件もある。こうした必要条件をいくつか集めると自動車を走らせるのに十分な条件になる。必要条件が一定数集まると十分条件になる。
もう一例挙げよう。こういう状況を想像してほしい。6教科があり、その内の4教科が合格点になると昇給するとしよう。さて、昇給するための必要条件はなんだろうか?
「6教科があり、その内の4教科が合格点になると昇給する」。この状況の必要条件を、「4教科が合格点に達すること」と答える人は意外と多い。けれども、それは「必要十分条件」だ。
必要条件(necessary condition)とは「欠かしてはいけない条件」という意味だ。もとはラテン語で、Sine qua non(シーネ・クァ・ノン:ありえないことなしに)と言い、そのまま、"A sense of humour is a sine qua non.(ユーモアのセンスは不可欠)"と英語でも使える。
だから、1教科でも合格することは必要条件になる。3科目合格も必要条件である。4科目だと必要十分条件になり、5科目合格は昇給に十分な条件なので十分条件(sufficient condition)になる。6科目合格も十分条件だ。

達成に至るまでの条件が必要条件。達成に当たるのが必要十分条件。達成を余裕で満たす条件が十分条件。企画では十分条件を目指して必要条件を洗い出そう
企画や調査をする時も、何が必要条件か? いくつ必要条件を積み上げると十分条件になるか? という視点を持つと明確に考えることができるようになる。
ところで、最初の例が意味不明になってしまったのはなぜだろうか? 真とする命題がよくなかったのだ。真とすべき命題は、「自動車が走っているならば、ガソリンが自動車に入っている」とすべきだった。
そんなの当たり前と思いがちだが、論理というのはそれだけでは新しい情報をもたらすものではないし、時間的な推移は表現しない。論理は、着想の道具ではなく、思考を点検するための道具だ。

テクニカルライター。1957年東京生まれ。国際基督教大学卒業後、同大学院で言語学を学ぶ。1990年前半友人と翻訳・テクニカルライティング事務所を経営。1994年末、インターネットによる遠隔地業務可能に合わせフリーランスとなり沖縄に移住。2002年東京に戻り現在に至る。「日経クリック」(現在休刊中)で10年間Q&Aを担当。日経トレンディネット