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人を組み替える

2015.03.31

社長の脳はデジタル化できるのか

米山 公啓

脳に学ぶ経営戦略

危機管理 IT

今年の電脳将棋では、コンピューターが2回負けている。昨年まではコンピューターが有利であり、すでに人間を超えていると思われていた。それが今年は若手の棋士が出てきたこともあり、今までにない手を指して成功している。成れる角をあえて成らずに王手して、コンピューターは「不成」に対応できずに負けてしまった。

すべてはデジタル化へ向かう

私たちが経験や学習で行ってきたことをデジタル化して、それをメカにやらせる。すべてのことがそういう方向に向かっている。車の自動運転、飛行機の操縦、さらには日本酒の製造まで、様々な分野に広がっている。一方で、そのようになんでもデジタル化することを嫌う人もいる。人間がいわゆる勘でやってきたことをすべてデジタル化することは、大げさに言えば人間の存在を脅かすことになる。

しかし、実際には日本酒の製造にまでデジタル化は及んでいる。「獺祭」で知られる酒造メーカーは杜氏がいなくなり、やむなく酒のつくり方をIT化して大成功している。それでも、最後は人間の勘(極みの技)に頼っていたことを機械やコンピューターに任せるには、まだまだ抵抗があるのも事実だろう。

車も自動運転まではいかないまでも、最近の車には前の車に追随していく装置がある。人がアクセルもブレーキも踏まずとも、前の車との距離を保ってくれる。実際に使ってみると、やはりかなり怖い。かなり接近してからブレーキがかかるので、メカを信用できずに思わず自分でブレーキを踏んでしまう。止まるということ一つとっても、メカと人間では感覚的に同じではないようだ。

未知のことにどう対応できるか

ドイツの格安航空会社のエアバスA320が墜落した。このA320にはいわゆる操縦桿がなく、テレビゲームで使うようなスティック状のコントローラーがついているだけで、他はすべてスイッチ類でコントロールするという、まさに飛行機の操縦もデジタル化ということだろう。しかし、元パイロットの意見によると、緊急の際にデジタル化されたコックピットでは対処しきれないのだそうだ。アナログである操縦桿は体感的であるので、そのほうが対処しやすいという。

電脳将棋においては、若手棋士が今までの常識では考えられない手を打って勝っている。まだまだコンピューターは、人間がデータを入力したこと以外のありえない状況では、的確な判断ができないのではないだろうか。様々なデータのデジタル化は、あくまでも人間の経験があってこそだ。車の自動運転なども実際に始まってくると、そういった想像できなかったことが起こる可能性がある。

社長の脳はデジタル化できるのか

私たちは、いまだに多くのことを直感に頼っている。社長が高齢になっても的確な判断が可能なのは、過去の経験値が非常に重要だからだ。そういった過去の経験をすべてデジタル化するには、さらに時間がかかるだろう。しかし将来、ほとんどのことがデジタル化される時代は来る。それは決して否定的な世界ではない。「機械なんかに任せられるか」という時代は必ず終わりがくるはずだ。

残されたものは、人間の創造性ということになる。脳が持つ未知の機能は、完全には分かっていない。ITが突然、iPhoneのような物を創造するときが来るには、まだまだ時間がかかるだろうし、予測できないことに対応できる人間の技術や能力のデジタル化には時間がかかるだろう。つまり社長の仕事をITが引き継ぐのは、まだだいぶ先と言える。

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プロフィール

米山 公啓 (よねやま きみひろ)

1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修なども行う。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事。