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カネを活かす

2015.02.09

7月には「出国税」導入──富裕層を狙った改正案の仕組み

樋口 秀夫

事業主さんのための攻めの節税

会計 節税 制度

自民、公明両党は2014年12月30日、2015年度与党税制改正大綱を正式に決定しました。衆参両議院において圧倒的多数を占める両党による決定は、よほどのことがない限り覆ることはないものと思われます。そのなかで、富裕層対策として「出国税(Exit Tax)」を導入し、7月1日より実施されることが発表されています。

その概要は、株式などに係る金額の合計額を1億円以上保有している者が出国する(非居住者となる)とき、その時点において株式などを譲渡したものとみなして課税しようとするもので、富裕層のキャピタルフライトの防止を狙ったものといえます。

本題に入る前に、非居住者にかかわる株式などの譲渡があった場合、現在の税法ではどのような課税の仕組みになっているか、確認しておきましょう。

1. 現在の税制の仕組み

(1)原則

日本非居住者で、日本に事業を行う拠点(恒久的施設)のない者が、株式などを売却して譲渡益が生じた場合については、原則として日本の所得税は課税されません。なぜなら株式などに対する譲渡益は、それを譲渡した人が居住する国で課税されるのがグローバルな取扱いとなっているからです。

ただし日本の相続税法は、株式などをもらった者が日本非居住者(日本国籍を有し、贈与以前5年以内のいずれかの時において国内に住所を有している場合)であっても、あげた者が日本居住者の場合は課税されることがありますので、所得税とは異なる取り扱いとなっています。

(2)例外

そして所得税法においても、日本居住者との課税の不公平感を失くすため、次のようなケースにおいては、日本非居住者の株式譲渡益に対して例外的に日本の所得税を課税することがあります。

イ. 内国法人の株券等の買集めをし、これをその内国法人等に対し譲渡することによる所得
ロ. 内国法人の特殊関係株主等である非居住者が行う、その内国法人の株式などの譲渡による所得
ハ. 税制適格ストックオプションの権利行使により取得した特定株式などの譲渡による所得
ニ. 特定の不動産関連法人の株式の譲渡による所得
ホ. 日本に滞在する間に行う内国法人の株式などの譲渡による所得
へ. 日本国内にあるゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡による所得

上記のイからホのケースに該当する場合、株式の譲渡益に対して15.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%)の課税がされることになります。従って現在の法律の範囲においてもなお、住民税は課税されないので、その分の節税効果(住民税相当額5%)はあるといえます。

2. 出国税とは

前述のとおり、同族会社やベンチャー企業のオーナーの持株売却に伴う譲渡益は、現行の税制においても日本国内においてある程度課税が行われていると言えます。しかし、上場株式などで資産運用をしている投資家については、個別銘柄を25%以上保有するというような特殊関係株主であることは一般的ではないので、これらの投資家の方が日本から出国して日本非居住者となった後の株式譲渡益には、日本においては課税がされないことになります。それらの投資家対策として出国税が導入されようとしているわけですが、この出国税とは次のような内容となっています。

(1)対象者: 有価証券等又は未決済デリバティブ取引等に係る金額の合計額が1億円以上である者で、出国の日前10年以内に居住者である期間の合計が5年超である者が対象とされます。

(2)概要: 所得税法に規定する有価証券若しくは匿名組合契約の出資持分又は未決済デリバティブ取引等を有する場合には、出国時に、当該有価証券等の譲渡又は当該未決済デリバティブ取引等の決済をしたものとみなして、事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額を計算することとなります。

(3)実施期間: 平成27年7月1日以後に出国する場合について適用されることになります。

この制度は日本独自のものではなくアメリカ、ドイツ、フランス、カナダ、イギリスなどでは、すでに導入されています。個人富裕層が日本を出国して非居住者となる際に、株式などを決済したこととして、保有する株式などの含み益に課税するというもので、未実現のキャピタルゲインに対して課税されることになります。

一般的には、株式などの含み益については株式などを売却した者が居住している国に課税権があるとされています。しかし、この原則があるにもかかわらず未実現のキャピタルゲインに課税しようとするのは、日本ではキャピタルゲインに現行で20.315%(復興特別所得税を含む)の税金がかかりますが、シンガポール、香港、ニュージーランド、スイスなどにおいてはキャピタルゲインについて非課税という取扱いがされているからです。従って、富裕層においては株式を保有したままこのようなタックスヘイブンともいえる非課税国に移住することによって、日本における税負担を回避するという節税スキームが生まれてくるわけです。この出国税を創設することによって、日本における課税権を確保するとともに、「武富士事件」や「中央出版事件」のような争いが再燃することを防止する効果もあると思われます。

3. 出国税創設に伴う問題点

しかし、出国税については以下のような問題点・疑問点があることも見逃せません。出国税は含み益を課税対象とするため、租税立法上の基本原則である応能負担原則を大きく踏み外すことになります。担税力のないところに課税することになりますから、納税資金が不足する事態になることも十分に考えられます。

さらに、出国税は会社都合による海外赴任のような場合もその対象となりますので、出国後に株式などを売却せずにそのまま日本に帰国したりするケースも考えられます。従って、そのような場合を想定して、以下のような延納や納税猶予などの措置が設けられる予定になっています。

・納税猶予の制度
基本的に出国から5年間は納税を猶予することができます。その場合の要件として、

(1)国外転出の日の属する年分の確定申告書に納税猶予を受けようとする旨の記載をした場合
(2)納税猶予分の所得税額に相当する担保を供し、かつ、納税管理人の届出をした場合

ということになります。もしも5年以内に帰国した場合には、帰国から4か月以内まで猶予されることになります。さらに、納税猶予は申請により10年まで延長することができます。

また、納税猶予の期限までの各年12月31日(基準日)における、当該納税猶予に係る「有価証券等及び未決済デリバティブ取引等の所有に関する届出書」を、基準日の属する年の翌年3月15日までに、税務署長に提出しなければならないことになっています。

そして「納税猶予を受けている者が、有価証券等又は未決済デリバティブ取引等の譲渡又は決済等をした場合には、その譲渡又は決済等があった日から4月を経過する日をもって納税猶予に係る期限とする」とありますので、この場合には4月以内に納税することになります。そして「その譲渡に係る譲渡価額又は決済に係る利益の額が国外転出の時に課税が行われた額を下回るとき(決済に係る損失の額にあっては上回るとき)等は、その譲渡又は決済等があった日から4月を経過する日までに、更正の請求をすることにより、その国外転出の日の属する年分の所得税額の減額等をすることができる」ことになります。

また、出国先の国でその有価証券などの譲渡があった場合、二重課税とならないように租税条約などで必要な措置をとる必要があります。

4. 財産債務明細書の見直し

上記の出国税導入に伴い、資料収集のための制度が次のように変わることになりました。

(1)現在の制度について

・財産債務明細書
「その年分の所得金額が2千万円超である」納税者については、自己の財産・債務を記載した財産債務明細書を提出することが義務付けられていました。

・国外財産調書
これは平成26年から提出が義務付けられる制度で、同25年中に亡くなった人や、同25年末で国外財産5千万円超の人が提出しなくてはなりません。具体的には以下のような内容です。

イ. 国外財産を記載
ロ. 財産時価が5千万円超
ハ. 国外財産調書の提出がある場合、申告漏れ等に係る所得税・相続税の5%相当額を加算税額から減免する
ニ. 提出がない場合には、申告漏れ等に係る所得税の5%相当額を加算税額に加算
ホ. 不提出や虚偽記載は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金

(2)改正される財産債務調書

税制改正大綱によると、財産債務明細書について次の見直しを行い、新たに財産債務調書として整備されます。

イ. 提出基準の見直し
現行の提出基準である「その年分の所得金額が2千万円超であること」に加え、「その年の12月31日において有する財産の価額の合計額が3億円以上であること、または、同日において有する国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること」を提出基準とされます。

ロ. 記載事項の見直し
現行の記載事項である「財産の種類、数量及び価額」のほか、財産の所在、有価証券の銘柄等、国外財産調書の記載事項と同様の記載を要することとされます。

出国税の創設により、富裕層にとってはタックスヘイブンを利用した節税スキームがかなりやりづらくなりそうです。課税の公平ということを考えれば、タックスヘイブンを利用した節税スキームと何の縁もない庶民にとっては、一服の清涼剤ということになるのでしょうか。

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プロフィール

樋口 秀夫 (ひぐち ひでお)

IAU税理士法人・樋口事務所所長。1952年東京都生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。1982年税理士試験合格、1985年6月税理士事務所開業。税理士は税務における納税者の弁護人であるという理念に基づいた業務内容に特徴があり、多種多様な業種のクライアント多数。