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富士見町の小林一彦町長

特集

2014.12.17

首都圏に近い小さな自治体「富士見町」の課題と挑戦(後編)

創生する未来

~地域支援プロジェクト~

地域創生 IT 地方

前編からの続きです

次世代へつなぐIT企業の誘致は成功するのか?

以前に取材した釜石市の支援団体「釜援隊」のメンバーのブログからの孫引きで恐縮だが、『地域力がマイナスの集落にいきなり事業導入型サポート(掛け算のサポート)をしても、マイナスを大きくするだけである。まずは、寄り添い型サポート(足し算のサポート)を地道に行い、地域力がプラスになった段階で事業導入型サポートを行うと効果が生まれる。』

この考え方は、地元の経済がマイナスなのに外から全く地元とは関連のない事業を持ってきても、逆にマイナス面が大きくなるという意味だ。そしてまずは地元にある経済を地元発の資源でサポートしながら上方に導くことが前提であり、そこからプラスになったところで外からの事業を導入すべきだろう。

必ずしもすべてにその法則が成り立つとは思わないが、少なくとも地域が自律的に機能するには、地元の人、企業、共同体が主体となって動かなければ、継続的に事業を進めることは難しいだろう。外部の事業というカンフル効果が途切れた場合(誘致企業の撤退など)でも、地元のリソースを中心に置いて機能していれば、その後も継続できる。

ITの進歩によって、特にコミュニケーション系のインフラは格段の進歩を遂げた。遠隔地にいてもテレビ会議システムなどのテレワーク環境が容易になり、低価格で利用できるようになったことにより、どこにいても仕事が出来る環境が整ってきている。ライフワークバランスを重視し、子育てや通勤などの負担を減らすことで自身の仕事の環境を改善し、仕事と生活をより良く過ごせるための機運は高まっている。

ましてや地域創生のスローガンでもある「首都圏から地方へ」の具体的な施策として、企業が地方へ移転するには最適なタイミングだ。特に直接には人と接することが少ないような職種、ソフト開発やコールセンターなどのIT企業が抱える業務などは、実際に一部の機能を首都圏から地方へシフトしてきている。

筆者も実際に和歌山に開発拠点を移転した大手IT企業の取材をしたことがあるが、小高い丘にオフィスがあるため、窓から見える景色、眼前の森越しに広々とした湾が見渡せる環境に、陶然とした思いだった。端的に言って非常にうらやましいと感じた。

ここ富士見町にも似たような施設がある。一番の売りになる集合オフィス誘致施設を見た。

東京の女子大の研修センター
東京の女子大の研修センター

富士見駅から車で5分程度の小高い丘の頂上、広大な敷地にその施設がある。建屋は若干古く、今は使用されていないため、利用するには約1億5千万円のリフォームが必要となる。国からの支援も念頭にその終了を2015年秋ということで予定計画を進めている。この施設はシラカバなどの樹木で囲まれて、別荘地のようにとても閑静な環境にある。

不便さはデメリットでない(都会の生活を再現する必要はない)

夜明けの窓越しにアルプスの峰々が見える。野鳥の鳴き声で目覚める。仕事の合間にシラカバ林の中を散歩する。都会での執務環境では得難い自然環境の中で、東京のオフィスとほぼ同じ(むしろ通信回線状況などは良好)快適なネットワークで仕事をする。「こちらのほうがむしろピンとくる」ということは、実際にテレワークをしている人から聞くことができた。

なので、物理的に東京などの都会から近いことや、東京で体現出来ていた生活環境やレジャー環境が近くにあることは、大きなメリットにならないようだ。むしろ不便でも良いので、その移り住む先の自然環境など、地域ならではの特徴が移住するためのモチベーションとなりうる。

この事業のポイントは、転勤や一時的な赴任ではなく、家族揃って富士見町に住んでもらいたい、移住してもらいたいというのが狙いなので、特に家族、奥さんや子供のことも考慮しなくてはならない。学校や病院、買い物やレジャーなど、近接する生活空間も充実しているということを売りにしている。

実際、学校や病院はもちろんだが、ゴルフ場やアウトレット、スキー場などのレジャー施設まで身近にあるというのも悪くない。そして富士見町のメリットは東京から近いことだ。平日は東京で、土日は富士見町という人もいる。地震にも強い。スキーを始めとするアウトドアも盛んである。隣の原村と一緒に観光圏にしたいと考えている。「奥さんが移住してもいいと思う町にしたい」──単身赴任の人がローテーションで来るのは続かないと思うので、ぜひとも移住につなげたいというのも分からなくはない。

ただし、都心からも近いということがテレワーク環境として検討すべき最も重要な要素なのかと言えば、少し違うだろう。テレワークで仕事をする環境さえ整っていれば、あとは生活環境の不便さが気にならないような、そこだけの自然や文化、居住空間などの良さこそが選択条件の上位に来るべきだ。

つまり東京に近いとか、東京と同じレジャーがここでも楽しめるといったことはごく付帯的な要素であって、肝心なことは富士見町ならではの良さを、自然に囲まれた良さを、この環境で生活し、仕事ができる楽しさをアピールすることこそが重要なはずだ。

八ヶ岳連峰と富士山を一望できる居住環境に、あり得ないほどの贅沢さを味わえたことは間違いない。この地の良さをうまくアピールして、テレワークオフィスの誘致に成功してもらいたいと思う。「モノを持ちこむのではなく、あるモノを生かす」ことが基本であるべき、という金言が響く取材だった。

文:ノークリサーチ代表取締役 伊嶋 謙二

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プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。