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富士見町の小林一彦町長

特集

2014.12.16

首都圏に近い小さな自治体「富士見町」の課題と挑戦(前編)

創生する未来

~地域支援プロジェクト~

IT 地方 地域創生

大きな負債からの脱却

長野県諏訪郡富士見町。周囲を八ヶ岳連峰や南アルプスに囲まれた、そして遠くに富士山がくっきり見える、まさに自然に抱かれた静かな町である。新宿からの特急あずさに揺られて2時間あまりで到着する富士見町駅。特に観光地といった雰囲気もない地方都市の、まさにローカルな駅のたたずまいである。商圏的に言えば名古屋からも車で2時間半にあり、大都市圏からは程よい距離でもある。

今回、富士見町を取材するにあたって、先入観なしに多くの知人にこの地名を尋ねたが、10人中10人が「それはどこにあるの?」と知らない。付近の清里や茅野を挙げるとようやくあたりが分かるという感じの知名度だ。

さて、駅から歩いて10分弱のところに富士見町役場があった。地勢的にはうねうねとした感じだが、高い建物がなく、駅から歩いて2分もすれば見晴らしが良くなる。他に高い建物がないので、町役場はすぐにそれと分かった。3階の町長室に通されて、小林一彦町長との面談が始まった。

富士見町とはどういう自治体かを簡単に説明しよう。長野県ではあるが、むしろ山梨県との県境にあり、甲府からも電車で20分程度。人口は1万3千人弱で、ピークの約1万5千人からは毎年減少が続いている。産業的には農業、観光が中心だ。観光ではパノラマラインというスキー場が目玉で、10年前に「都心から一番近い本格的なスキー場。ノーマルタイヤでゲレンデに来られてスキーができる」という売り込みだったが、設立で使った約20億円の投資がのちのち町の財政を圧迫する原因となった。農業ではカーネーション、レタス、ブロッコリー、いちごなどが有名だが、近年では人口の減少で農家も少なくなり、農業事業の拡大が厳しい。

富士見町では農業の後継者対策として、都会でリストラされた人とかサラリーマンを辞めて田舎で農業をやりたいという人を対象に、新規就農者パッケージという就農支援を行っている。農業を教えてくれる親方の紹介、住居の提供、農作機械の貸与を行うほかの内容で、同時に農林水産省の新規就農給付金(年間150万円の給付)を薦めるなど厚い支援体制を敷いている。移住して3年で年収300万円を目指しているというものだ。この支援は平成22年度より行っており、現在32件、法人4件が移住した。人員は総勢50名にまで移住の実績をもっている。どこの自治体でも現地産の資源を付加価値化して展開する、6次産業化を果たすことを目標としている。

テレワーク環境完備の富士見町としてIT企業を誘致

小林町長と初めて会ったのは、2014年の6月ごろ、IT業界の自主的な勉強会の懇親会だった。小林氏は元NECの役員で、PCサーバー市場でNECをシェア1位に持ち上げた実績を持つ人物である。その懇親会の乾杯の音頭の前に、富士見町の町長として現在進めている「富士見町移転計画(テレワークオフィスタウン実現)」を説明した。IT企業のテレワーク拠点として富士見町へ来てほしいということだった。いわゆる企業誘致による町おこしのPRだ。

内容は「テレワークオフィスタウン実現に向けて富士見町の戦略」と題して、(1)町行政を中心に国や県の支援を受けて推進する。(2)テレワークICT技術タスクフォースチームを形成し、現業務環境の富士見町への移転をスムーズに行う。(3)1年間の無料トライアル期間を2015年にスタートする予定。

1年目の人数は5件程度で、オフィスや住宅費の負担は無料だ。住宅は現存の空家やアパートを提供し、オフィスは住居内オフィスまたは小規模集合オフィスを用意する。現業務環境の移転構築には、ICTタスクフォースが実行し、利用者の負担も初年度は無料となっている。

徳島県神山町のテレワークオフィスで知られる移転事例が、富士見町のこの計画のひな型であることは一目瞭然である。タスクフォースチームはダンクソフトや大塚商会、NECなどのIT系の企業で進めつつある。今後、富士見町以外にも同じことを考える地方自治体は出てくるであろうことを町長は理解している。

ただし、町長の今までのIT業界における実績とキャリアによる人脈が、他の地域に対する優位性であると考えている。そして富士見町は小林町長の故郷である。なんとか地元に、新たな活きの良いIT企業という血流を導きたい思いが伝わる。現状では農業と観光という地味な印象の自治体の富士見町が、次世代の企業誘致という形で再生できるかどうか。来年から本格的に始まるこの事業への期待は大きい。

後編では、一番の売りとなる集合オフィス誘致施設などを紹介しながら、地方での生活環境について思案します)

文:ノークリサーチ代表取締役 伊嶋 謙二

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プロフィール

創生する未来

《創生する未来とは何か?》「創生する未来」とは、ノークリサーチが提唱する地域支援のための活動です。地域自治体、地域経済団体、大学などと連携し、地域のITを提案する企業、ITを活用して事業の推進・拡大を目指す地元企業に向けて、IT/クラウド/IoTなどの最新技術をツールとしたセミナーなどの企画、運営、実行する事業を行います。また、調査やコンサルティングも行いながら、地域におけるITの認知、啓蒙、活用による地域企業を支援し、それによる地域活性化を目標としています。