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カネを活かす

2014.11.27

過大な役員報酬とは 比嘉酒造をめぐる争い

樋口 秀夫

事業主さんのための攻めの節税

法律 オーナー 節税

琉球新報の報道によると、泡盛「残波」の蔵元である比嘉酒造が4年間にわたって支払った役員報酬など19億4千万円のうち、6億円が「不相当に高額」として沖縄国税事務所から申告漏れを指摘されていました。

役員4人に対して支払われた役員報酬と退職慰労金を経費として計上していたものの、これを国税事務所が認めなかったために1億3千万円を追徴課税され、その後も東京地裁で争っているそうです。

過大な役員報酬とは

沖縄国税事務所では、比嘉酒造役員4人に支払われた4年間の役員報酬12億7千万円および退職慰労金6億7千万円のうちの6億円を過大報酬と認定して追徴課税したとのことですが、申告漏れに至る原因としては次のようなことが想定できます。

1. 役員報酬額が株主総会の決議による支給限度額を超えており、法的に問題がある。
2. 退職金の支給金額が判例等で認められている金額(功績倍率等で計算)よりも過大に支給されている。
3. その役員の職務内容、その法人の収益および使用人に対する給与の支給状況、その法人と同種同規模の事業を営む法人の役員に対する報酬などから見て、過大と認められる。

実際の沖縄国税事務所の主張としては、朝日新聞で次のように紹介されています。

沖縄国税事務所は沖縄県と熊本国税局管内(熊本、大分、宮崎、鹿児島)で、売り上げが同社の0.5~2倍の酒造会社約30社を抽出し、役員の基本報酬を比較した。その結果、同社は平均額の4~9倍で、退職慰労金も高額だと認定。06年2月期をピークに売り上げが減り、社員給与は増えていないのに役員報酬は上昇したなどと指摘した。

この沖縄国税事務所の主張を解釈すれば、株主総会の決議による支給限度額を超えているというような法的、形式的側面からのものではなく、同業種、同規模の会社と比較して平均額よりも高額であるという理由により、結果的に申告漏れとして追徴を受けたということになります。

会社法における役員報酬

それでは、会社を運営するうえで指針となる会社法において、役員報酬はどのように規定されているでしょうか。

第361条【取締役の報酬等】
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受け取る財産上の利益(以下「報酬等」という)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
1. 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
2. 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
3. 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

・会社法の規定では原則、役員報酬額は定款に記載しますが、株主総会決議とする旨を定款に記載することも認められています。
・大半の会社では、株主総会に役員報酬の決定権限を移譲することを定款に記載した上で、株主総会において報酬総額を決定しています。そして役員別の支払額は、取締役会で代表取締役に一任するという形式をとっています。

このように、会社法においては役員報酬について契約自由の原則を踏まえ、会社の私的自治の範囲で決定することを認めています。

同業種、同規模の会社の平均額の計算

法人税の規定では、「報酬のうち、その役員の職務の内容、その法人の収益及び使用人に対する給与の支給状況、その法人と同種同規模の事業を営む法人の役員に対する報酬などからみて過大と認められる部分」が過大役員報酬と認定され、法人税の計算上損金の額に算入が認められないということになります。

しかし現実には、新規の事業においては同業種、同規模の会社が存在しないことも考えられ、その場合は比較すべき平均額の計算は不可能ということになり、この規定そのものが意味の無いものになります。また、比嘉酒造のような中小企業が、税務署が提示したような他企業の役員報酬に関するデータを収集することは、到底不可能です。

そのようなデータを収集することが可能となる制度として、1947年から高額納税者公示制度が導入されていましたが、2005年に廃止されました。所得税額が1千万円を超える納税者が住所・氏名まで掲載される形で市販されており、簡単に入手可能、大規模な図書館などでも閲覧可能となっていましたので、その頃なら他企業の役員報酬を調べることがある程度は可能だったかもしれません。

制度の当初の目的は「高額所得者の所得金額を公示することにより、第三者のチェックによる脱税牽制効果を狙う」ことであったようですが、「第三者のチェックによる脱税牽制効果」の意義が薄れているという指摘があることや、犯罪の助長になってしまっていること、2005年4月1日から個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)が全面施行されたことを受け、この制度は2006年(2005年度分)から廃止されました。

もし、納税者側で予見不可能なデータに基づいて課税処分が行われるというような場合、それが果たして憲法に規定する租税法律主義が貫かれていると言えるのか、非常に疑問を感じるところであります。

なお、2009年には民主党政権により内閣府令が改正され、「年俸1億円以上を支給している企業役員」の個人名と報酬額の開示が義務付けられました。2010年3月期から開示が行われており、企業の役員報酬について限定的ながらも、長者番付が復活しています。

参考までに、公表されている2014年3月期の高額役員報酬のランキングを示すと、東京商工リサーチによれば以下のようになっています(カッコ内は前期の金額)。

1位:キョウデン、橋本浩(最高顧問)、12億9200万円(開示なし)
2位:カシオ計算機、樫尾和雄(社長)、12億3300万円(開示なし)
3位:カシオ計算機、樫尾幸雄(特別顧問)、10億8300万円(開示なし)
4位:武田薬品工業、フランク・モリッヒ(元取締役)、10億1600万円(7億6200万円)
5位:日産自動車、カルロス・ゴーン(社長)、9億9500万円(9億8800万円)
6位:ミスミグループ本社、三枝匡(取締役会議長)、9億円(3億1600万円)
7位:フジッコ、山岸八郎(名誉会長)、8億4700万円(開示なし)
8位:武田薬品工業、山田忠孝(取締役)、8億3800万円(7億1200万円)
9位:ユニバーサルエンターテインメント、岡田和生(会長)、8億1000万円(3億6400万円)
10位:日本調剤、三津原博(社長)、6億7700万円(5億9000万円)

トヨタ自動車は6月24日に公表した有価証券報告書で、1億円以上の報酬を受け取っている役員の人数が7人だったと開示しており、最高額は豊田章男社長の2億3000万円で、7人の総額は9億4400万円と公表しています。その総額は売上額ではるかに下まわる日産自動車の社長カルロス・ゴーン氏に及ばず、その金額は「同種同規模の事業を営む法人の役員に対する報酬などからみて過大」になるのかどうか。比嘉酒造の場合は「同社は平均額の4~9倍で高額」ということで課税処分を受けていますので、このような事例を見ると、果たして課税の公平が保たれているのか判断に苦しむところです。

沖縄国税事務所の処分は厳しすぎる

前述の琉球新報による報道にもあるように、比嘉酒造の代理人を務める田代浩誠弁護士は、「泡盛メーカーとして業績を上げ、内部留保もした上で、所得税も法人税も支払っている。法人税率よりも高い所得税を役員らは支払っている」とした上で、「今回の役員報酬などは私的自治の範囲内のものであり、国税事務所が役員報酬をいくらが適正なのか判断できるものではない」と指摘しています。

今回の沖縄国税事務所の課税処分は、法人の契約自由という私的自治に不当に介入している可能性があります。

また、法人税法で規定する平均的な役員報酬額は、公表されているわけではないのでその数値が企業側で分かり得ないという現実があります。このような中で課税処分が行われるという行為は、課税の公正という見地からみて、フェアーな精神を大きく欠くものではないでしょうか。さらにこの処分の結果、同じ所得に対して所得税と法人税が二重に課税される結果となるため、かなりの税負担を強いられる結果となります。

比嘉酒造さんには全国の中小企業を代表して、このような不当な課税処分に対し断固として戦っていただきたいと思うところです。

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プロフィール

樋口 秀夫 (ひぐち ひでお)

IAU税理士法人・樋口事務所所長。1952年東京都生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。1982年税理士試験合格、1985年6月税理士事務所開業。税理士は税務における納税者の弁護人であるという理念に基づいた業務内容に特徴があり、多種多様な業種のクライアント多数。