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モロッコ・フェズ、旧市街の入り口。

モノと道具を再構築する

2014.10.21

「ハラール認証」に頼らない「ムスリムフレンドリー」なビジネスのあり方

中田 考

イスラーム式経営術

文化 信用 制度

厳格なハラール認証はあり得ない

ハラール認証団体が発行する認証には、1年なり2年なりといった有効期限が設けられていますが、もちろんそうした有効期限はクルアーンにもイスラーム法にも根拠がありません。本当に第三者機関がハラールを認証しようと思ったら、有効期限などというものはあり得ず、ハラール認証団体の人間が、認証するすべての工場やレストランに常時立ち会い、原材料や処理方法を確認の上、食品に一つずつハラール認証のマークを貼っていくしかありません。

さらに、イスラーム学の最も権威ある古典『宗教諸学の蘇り』(ガザーリー)の「ハラールなものを食べる」ことについて触れた章では、食品の含有物や処理方法についての記述がほとんど見当たらない一方で、食品の流通過程における利息付き貸借など、イスラームからみて不正とされる取引が混ざったものを食べてはいけないと書かれています。ある商品がハラールであるかどうかを確認するには、原材料や加工方法を調べるよりも先に、その流通・製造過程の取引内容が大事だということです。従ってハラールを確認するためには、まず関係者の帳簿をすべて調べ上げることが第一にされなければならないはずです。これは普通の日本人には理解し難いことでしょう。

そんなことをしていては一つの商品の認証に膨大な費用がかかってしまい、誰もハラール認証など受けなくなってしまうことが明らかです。このため、ハラール認証機関は費用を相手が払えそうな額にして、適当な有効期限を設けているのです。

ムスリムが安心できる食をどのように提供するか

前回述べたように、私はハラールかハラールでないかを特定の団体がイスラームの名のもとに認証すること自体が、イスラームの教えに反することであると考えています。加えて上述したように、それは現実的に第三者機関によって判定できるようなものではないのです。あたかもイスラーム法学者のお墨付きがあるかのような体裁を装って次々と新しいハラール認証団体が現れるのは、レストランや生産者から金を吸い上げるためとしか考えられないのです。

とはいえ、ハラール市場が活況というニュースを耳にすれば、日本の経営者としてはそれにあやかりたいと考えることでしょう。事実、日本を訪れるムスリムの数は増えていますし、食品企業やレストラン経営者が、ムスリムにも安心できる食を提供したいと考えるのは理解できます。

マレーシアが国家と結びつくかたちでハラール認証を行うようになったのは最近の話ですが、私がムスリムになった30年ほど前にも、例えばパキスタンなどでは「ハラール」と書かれた缶詰を見かけることがありました。しかし、当時はまだハラール認証団体は存在せず、生産者がそれぞれの責任のもとにハラールと記載していました。生産者当人がハラールと書くのであれば、それは本人の主張に過ぎませんから、第三者機関があたかもイスラームの正当性があるかのように「認証」を与えるのと比べれば、よほど罪はありません。

しかし、生産者が勝手にハラールを名乗ればよいかというと、ハラール認証団体が幅を利かせるようになった昨今、前回紹介したタイレストランのように難癖をつけられるかもしれません。

一つではない、ムスリムの「ハラール」

そこで、ムスリムを相手に商売をしたい日本の企業や生産者には、ハラールであるかどうかは書かず、ただアラビア語やアルファベットで原材料を記載し、肉を含む場合はその産地を明記することをお勧めします。「ムスリムフレンドリー」と付け加えてもいいかもしれません。原材料と原産地を表示することは現在の世界的な潮流でもあるので、余計な負担はほとんど無いはずです。

原産地を表示するとよいのは、ムスリム諸国からの輸入でなくとも、アメリカ、オーストラリア、ブラジルなど、キリスト教徒が多数派となる国からの輸入牛肉および鶏であれば、食べてよいと考えるムスリムも多いからです。シリアの前最高ムフティー(イスラーム教義諮問回答官)故アフマド・クフタロー師は、私が「アメリカなどからの輸入肉を食べてよいか」という質問を送ったところ、書面で「問題ない」と答えてくれました(写真は故アフマド・クフタロー師の回答と、それを私が和訳したものです)。

故アフマド・クフタロー師の返答

ハラール認証がなくとも原材料と原産地が分かれば、日本にやってくる多くのムスリムにとっては十分、口にしてよいかどうかの判断材料になりますし、認証機関に大金を払う必要もなくなります。原材料と原産地を表示するだけでは口にしないムスリムもいますが、そもそも敬虔なムスリムであれば仮にハラール認証のマークがあっても、それを自らにとって「ハラール」と考えるとは限りません。

イスラームとは、一人ひとりがクルアーンを指針に、自分だけの責任で神さまと向き合う宗教です。個々の食品がハラールか否かは、適切な判断材料を与えれば、あとはムスリム各人が自身の信仰に照らして判断します。決して「ハラール認証」を取得することで決まるものではないのです。

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プロフィール

中田 考 (なかた こう)

1960年岡山県生まれ。株式会社カリフメディアミクス代表取締役社長/同志社大学高等研究教育機構客員教授。専門はイスラーム法学・神学。1986年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1992年カイロ大学大学大学院文学部哲学科博士課程修了、博士号取得。在サウディアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授を経て、2003年から2011年まで同志社大学神学部教授を務める。2011年よりアフガニスタン平和開発研究センター客員上級研究員。2013年株式会社カリフメディアミクス設立。著書に『一神教と国家』(集英社新書・内田樹との共著)、『イスラームのロジック』(講談社)など。