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ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)内にて撮影。エントランス近くには、所員の写真が並ぶ。

モノと道具を再構築する

2014.10.01

研究の実用化を加速する ソニーCSLのチーム編成術(後編)

北野 宏明

研究開発型企業の猛者マネジメント

生産性 小さな組織 技術

前回の続きです)

専任チーム「TPO」がもたらす事業化パフォーマンス

研究成果はソニーCSLの商材であり、商品化しなければ我々は研究開発型企業として残っていくことはできません。そこでTPOのメンバーが、研究成果を商材の在庫に加え、世の中の変化を見ながらソニー内の事業部や他社に対して働きかけを続け、商品化につなげていくという役割を持っています。研究者とTPOは役割分担をしながら、研究成果の商品化に取り組んでいるのです。

例えば現在のXperiaには、POBox、One-Touch、LifeLogなど、CSLの研究に端を発している技術がたくさん搭載されています。その中には、研究後すぐ商品化した技術もあれば、商品化まで10年以上かかっているものもあります。

またソニーの中には、CSLの研究者が研究対象として興味を持っているような部署もあります。例えば統計物理学を研究している高安秀樹は、10年近く半導体の製造解析の仕事をソニーの半導体事業部門や工場と行い、大きな成果を上げています。同じグループ内とはいえ、元々基礎的な研究所と半導体の製造現場が出会うことは決してなかったのですが、社内にネットワークを広げているTPOと半導体事業部門のキーパーソンが出会って、プロジェクトが立ち上がりました。これは研究者にとっても、大学では触れることができなかった課題に取り組める機会であり、企業研究所だからこそできる研究と言えます。その後、この活動は大きな流れになり、ソニーグループ内でのビックデータ分析活動として、多くの部署と共同研究を進めています。

最近では、ソニー・グループ内への展開だけではなく、ソニー以外の国内外の会社との連携も増えています。これもTPOが動いて、いろいろな案件を実行しています。ただ、このチームの活動はソニーや我々と連携している企業のビジネスにも関わる部分が多いので、具体的なお話は出来ないのが残念です。

研究の先に広がる展開や製品化の可能性。そのパフォーマンスは、研究と商品化をつなぐTPOを組織してから飛躍的に向上しました。この仕事はかなり負荷がかかるので片手間でなく専任でやってもらう必要がありますが、リソースを割いた以上の成果が得られています。研究開発部門の成果をどのようにビジネスにつなげていくかという課題に関しては多くの議論がされていますが、常に先を見越して動き、話を展開していく専任チームは、非常に効果的だと感じています。

研究の後に待つ「死の谷」を避けるには

研究成果の事業化や商品化は、多くの研究組織での課題になっていると思います。「死の谷」という言葉が生まれるほどです。「死の谷」という言葉は、研究成果が出て、その応用研究が行なわれているにも関わらず、商品化や事業化になる段階で超えられない「谷」が存在し、日の目を見ないという状態で使われます。しかし、それは私の経験から言うと「死の谷」の場所を間違って考えているように思われてならないのです。

基礎的な研究成果が出た後に応用研究を始めるわけですが、実は、本当の死の谷はここにあると思います。多くの研究では、この「見えない死の谷」を知らない間に渡ってしまい、先に行き止まりが待っている道でも、多くの研究資金を投入して進んで行ってしまいます。そして、そこが行き止まりだったり、いろいろな理由で事業として成り立たない「死の国」だと分かったときには、既に多くの資金を使ってしまったり、メンバーが疲弊してしまったりしています。こうなればもう、一度渡ってしまった「見えない死の谷」の手前まで引き返して、他の道を進むこともできない状況です。

これを避けるためには、応用研究に入る段階で具体的なユーザや使い方など、その研究成果の出口を見極めた上で、その方向に進むチームを実用化指向のメンバーで再編して進めるのがポイントかと思います。基礎研究をやってきた研究者自身が、応用指向、事業化指向の考え方を出来る場合もありますが、多くの場合は別のチームに引き継いだほうがうまくいくでしょう。CSLの場合は、ソニー本社内の開発チームに引き継ぐ場合、スピンアウトに引き継ぐ場合など、いくつかの出口戦略を想定しながら研究を進めています。

TPOという専任チームを置いているのも、応用研究に入る段階でチームを再編成するのも、基礎的な研究と応用研究、事業化、それぞれの局面で、求められるメンバーが実は異なるからです。この考え方は、CSLのメンバーにはかなり浸透しています。我々は小さな会社ですので、会社の持続可能性を維持するためには、最高のサイエンスと事業化戦略を実現することで、我々の企業価値を高めていく必要があるのです。

プロフィール

北野 宏明 (きたの ひろあき)

(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長、所長。1984年に国際基督教大学 教養学部理学科物理学専攻卒業後、日本電気に入社、ソフトウエア生産技術研究所勤務。1988年より米カーネギー・メロン大学客員研究員。1991年、京都大学博士号(工学)取得。1993年、ソニーコンピュータサイエンス研究所に入社し、現在に至る。1998年10月~2003年9月、科学技術振興事業団ERATO北野共生システムプロジェクト総括責任者兼務。2003年10月~2008年9月、科学技術振興機構 北野共生システムプロジェクト(ERATO-SORST) 総括責任者。2001年4月、システム・バイオロジー研究機構を設立、会長を務める。がん研究会 がん研究所システムバイオロジー部 部長。沖縄科学技術大学院大学学園 教授。理化学研究所 統合生命医科学研究センター 疾患システムモデリング研究グループグループディレクター。ロボカップ国際委員会 ファウンディング・プレジデント。Computers and Thought Award(1993)、Prix Ars Electronica (2000)、日本商環境設計家協会 JCDデザイン賞(1996)、日本文化デザインフォーラム日本文化デザイン賞(2001)、ネイチャーメンター賞中堅キャリア賞(2009)を受賞。ベネツィア・建築ビエンナーレ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)等で招待展示を行う。