• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

カネを活かす

2014.09.25

税務調査で私物の提出を求められたら、拒否できるのか

樋口 秀夫

事業主さんのための攻めの節税

節税 制度 信用

「犯罪人扱いしてはならない」

9月になり、いよいよ税務調査が本格化する時期になりました。税務調査を鬱陶しく思わない方はいないと思われますが、その税務調査のなかで、税務調査官から個人の銀行通帳や手帳・コンピューター等、個人の所有物の提示・提出を求められたことがあると思います。

税務調査官から、「確認のためですから」とか「やましいことがなければお見せいただけるんじゃないですか」などと説得されて、渋々応じた経験のある方もいるのではないでしょうか。

しかし、相手が税務署でなければ無条件で拒絶していると思われます。たとえ恋人同士、夫婦間でも個人のプライバシーは尊重するのが一般常識です。そのような人権の領域に踏み込んでくるのですから、要求された方の気持ちは穏やかではありません。もともと個人的に使用しているものは、税務調査官に見せることを予定しているものではない訳ですから、「何か疑われるようなことがあったら」と心配は尽きないでしょう。

納税者の権利を定めた「納税者権利憲章」は、先進諸国においてはほとんどの国で制定されており、「納税者の誠実性の推定」「プライバシーの尊重」は、韓国、カナダ、オーストラリア等で掲げられており、世界標準となっている状況です。

また、通常我々が経験する税務調査は、国税犯則取締法に基づく調査権とは異なり、適正な課税処分(更正、決定、賦課決定)を行うための資料を得ることを目的とした、純粋に行政目的のためのものであります。この調査は一般に「任意調査」と呼ばれていますが、納税者が調査に応じない場合には法律上一定の処罰が用意されているものの、質問検査権は犯罪捜査のための調査ではないので「基本的人権を侵してはならない」「犯罪人扱いしてはならない」とされ、「税務調査に強制力はなく、納税者の承諾が必要である」という解釈が成り立つ訳です。

ですから、もし税務調査官に個人の私物の提示・提出を求められたら、なぜそれが必要なのか、その理由を尋ねましょう。そこで納得のできる理由がなければ、私物の提示・提出は拒否しても差し支えないと思われます。

実際には、調査の協力を「お願い」される

国税庁は一般納税者向けに、税務調査手続に関してFAQという形式でパンフレットを作成しています。

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

問7 法人税の調査の過程で帳簿書類等の提示・提出を求められることがありますが、対象となる帳簿書類等が私物である場合には求めを断ることができますか。

 法令上、調査担当者は、調査について必要があるときは、帳簿書類等の提示・提出を求め、これを検査することができるものとされています。
 この場合に、例えば、法人税の調査において、その法人の代表者名義の個人預金について事業関連性が疑われる場合にその通帳の提示・提出を求めることは、法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるものと考えられます。
 調査担当者は、その帳簿書類等の提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、ご理解を得られるよう努めることとしていますので、調査へのご協力をお願いします。

国税庁 ホームページ

先ほどの結論とは、ちょっとニュアンスが違いますね。国税庁の見解は調査への協力という形をとりながら、かなり断定的な形で提示・提出を求めています。

ただし、その提示・提出の要請は無条件ではなく、「調査について必要があるとき」とか「その法人の代表者の個人預金について事業関連性が疑われる場合」とか、条件がついています。私物の提示・提出は「必要性」「事業関連性」がある場合に、「その帳簿種類等の提示・提出が必要とされる趣旨を説明し」と続き、最後に調査の協力をお願いする形になっています。

ここでキーワードとなるのが「趣旨」という言葉ではないでしょうか。この言葉の意味を辞書で引くと、「事を行うにあたっての、もとにある考えや主なねらい」とあります。例えば、税務調査官のなかには性悪説を前提に仕事をしている人もいるようです。そんな税務調査官が、「課税の公平を実現するのが調査の目的であり、調査に関係あるかないかを確認することも含めて税務調査です」というような税務調査の趣旨を主張して、個人の銀行通帳等私物の提示・提出を求めてくるかもしれません。

具体的なケース

それでは、具体的にどのような場合が「必要性がある」「事業関連性がある」と考えられるのでしょうか。

1. 税務調査官が売り上げに関する領収書の控えを調査して、備え付けの帳簿書類にすべての売り上げが計上されていないようなケース

2. 会社と個人間で金銭の移動が多く、また多額な金額の取引があるようなケース

あくまでも任意調査においては、納税者の人権に十分配慮をして調査を進められるべきであると考えますので、上記のようなやむを得ない理由があるときでなければ、私物の提示・提出には応じる必要はないと考えます。

そして税務調査官の方には、FAQを盾にした権力の乱用の自制を求めるとともに、「納税者の誠実性の推定」を前提とした、国民の目線に立った税務調査をお願いしたいものであります。

プロフィール

樋口 秀夫 (ひぐち ひでお)

IAU税理士法人・樋口事務所所長。1952年東京都生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。1982年税理士試験合格、1985年6月税理士事務所開業。税理士は税務における納税者の弁護人であるという理念に基づいた業務内容に特徴があり、多種多様な業種のクライアント多数。