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女性経営者の時代

2014.08.06

103万円の壁・配偶者控除は女性の社会進出を阻んでいるか

樋口 秀夫

事業主さんのための攻めの節税

制度 景気 節税 家計 生産性 家族 女性

配偶者控除に対する批判は大きい

安倍政権は6月24日の臨時閣議で、今後の経済政策の指針となる新たな成長戦略と「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を決定しました。

法人減税など投資家を意識した景気対策のほか、「人口1億人維持」という目標を初めて掲げ、女性や外国人など働き手の確保策を打ち出しました。そして、この日まとめた新成長戦略でも「国や地方自治体、企業の女性登用の目標や行動計画の策定などを内容とする新法を制定する」と明記しています。

しかし、この「骨太方針」に、専業主婦らのいる世帯の税負担を軽くする「配偶者控除」の見直しを明記することが見送られました。

安倍晋三首相の指示で検討を進めてきた政府税制調査会が、6月に示した論点整理の中で、制度見直しの狙いである女性の就労拡大について「税制だけで解決を図るのは困難」とする結論を示しており、また与党内でも慎重論が根強く、年内には合意形成が難しい状況かと思われます。

しかし、配偶者控除制度の見直し問題はこれで終了ということではなく、毎年の成長戦略の改訂時や税制改正の議論で、火種としてくすぶり続けるのは避けられそうもないと思われます。

配偶者控除は、所得税法の所得控除で、一定の所得以下の配偶者がいる場合、世帯主の所得から一定額を控除することによって、税負担の調整を行う制度です。具体的には、配偶者の年収が103万円までなら、世帯主の課税所得から38万円を差し引くことができます。

従って、その分所得税が減ることになるのですが、この制度は専業主婦世帯にとって恩恵が大きいため、女性の社会進出が盛んになる2000年ごろから、女性労働の中立性を阻害するという批判にさらされることとなりました。

この制度があるために、女性は就労調整をするので、女性の労働の場面が制限されるという批判です。

また、税の公平性の観点からの批判もあり、配偶者が就業しても、パート収入が103万円以下であれば給与所得控除と基礎控除が適用されるので、妻自らには課税が生じない上に夫は38万円の配偶者控除や配偶者特別控除が受けられ、夫と妻がダブルで控除を受けられることになる「二重控除」ではないかという問題が指摘されています。

このように、共稼ぎ家庭が1000万世帯を超える中で、比較的高所得である専業主婦世帯だけに税の恩典を与えるのは、不公平で時代にそぐわないという批判も加わり見直しが叫ばれ、今日の改正論議に繋がってくるわけです。

移転的基礎控除という考え方

これらの批判に対して、配偶者控除を次のような方向で改革していこうという考え方があります。オランダなどで導入されている制度で、「夫婦それぞれが基礎控除を持ち、妻が使いきれない場合には夫が使える」という移転的基礎控除という考え方を導入しようとするものです。

この制度の導入により、現行制度とどのような負担の違いが出てくるのでしょうか。妻の給与収入が65万円までの場合、給与所得控除があるので妻は38万円の基礎控除が使えませんが、夫が使える(移転できる)ようにするので、税負担は変わりません。

妻の収入が65万円から103万円の場合、妻は基礎控除の使い残し(38万-(給与収入-65万))が生じており、その分は夫が使うことができます。

103万円を超えれば、妻は自らの基礎控除38万円を満額使うことができるので、夫に移転する基礎控除はなくなります。

この制度の下では、妻の収入にかかわらず、夫婦(世帯)の控除額は38万円+38万円の76万円となるので「二重控除」という問題は解消できます。さらに、103万円の壁への意識は弱くなり、就業調整は緩和されると思われます。

一方で、配偶者控除と配偶者特別控除は廃止されるので、妻の収入が65万円から141万円の世帯の税負担は増加するという問題が生じます。

配偶者控除を廃止した場合の増収分は6000億円といわれていますが、生じた増収分は少子化対策等に充てることとすれば、国民からの反発も緩和できるのではないでしょうか。

配偶者控除の廃止は、これまで何年も議論されてきましたが、「専業主婦家庭の税負担増につながる」という理由で何ら手が付けられてきませんでした。しかしこの案では極端な負担増は生じないので、専業主婦家庭も受け入れやすいものと思われます。

今回、自民党が提出した代替案もこのような考え方に近いものでしたので、なぜそれを見送ってしまったのか、疑問の残るところです。

基本的には、女性が働くことを阻害する要因はすべて撤廃する方向に舵を取ることが、女性の社会進出を促すことに繋がると思います。

プロフィール

樋口 秀夫 (ひぐち ひでお)

IAU税理士法人・樋口事務所所長。1952年東京都生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。1982年税理士試験合格、1985年6月税理士事務所開業。税理士は税務における納税者の弁護人であるという理念に基づいた業務内容に特徴があり、多種多様な業種のクライアント多数。