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モノと道具を再構築する

2014.08.05

職人技の技術の伝承はどうやるの?

伊嶋 謙二

ITACHIBA会議レポート

効率 危機管理 人材 競争 IT 生産性 制度

情報システムの寿命と2015年問題

景気回復という喧伝に従っていえば、世の中の景気は好転しており、それに伴い企業の求人倍率も向上しているという。特に震災復興に伴う建設業や医療系の介護などの職種は超人手不足と言われている。

くしくも2015年問題と呼ばれる社会状況が身近になりつつある。これは、いわゆる団塊の世代が大量に退職する時期に起こるであろう現象である。

本当はもう少し前に問題化されていたが、当時の状況が少し変わり、再雇用などの面で過渡的に65歳ほどまでに年金支給時期がずれ込んだために、2015年になって一気に本格的に退職する人があふれだすということだ。これは日本経済と社会構造の変化がもたらした現象だ。

この社会現象とほぼ同期するように思われがちだが、実はコンピューターの日本における導入の歴史と2015年問題には符合した事情がある。

それは、ほぼ30年ほど前に日本の企業に一斉に導入したオフコンなどの業務システムの寿命が尽きつつあるという問題である。いわば時限爆弾のようなものだ。

当時導入したシステムの担当者がちょうど一斉に退職という時期を迎えている。その動きに加え、現在景気の好転に伴う大型プロジェクトが動いているために、多くのIT系の人材、特にSE的な技術者が押さえられている。

いわゆるマイナンバー制度や郵政事業のシステム刷新にともなう超大型プロジェクトのために、経過的には2015年~2016年にかけて、日本全体での開発要員が不足すると言われている。

さて、ITACHIBA会議に関連した内容で、ある中小企業のシステム担当者からこんな質問を受けた。

「私は企業で1人だけの情報システム専任者として、30年前のシステム導入時からITシステムの面倒を見てきた。そろそろ退任の時期だが、経営陣は後任者を全く考えていない。もうすぐ定年退職となり、今のままではこのシステムの引き渡しができないが、どうすべきか?」という内容だった。

30年前に初めて導入したときから、その担当者だけにすべてのノウハウが集中している。しかもテキストとしてのドキュメントもほとんど残されていないために、ほぼ個人の脳内に残されているだけだ。他にスタッフもいないので、共有する方法もない。

その業務システムは、いわゆる大手ベンダーのオフコンシステムだ。とても古いがまだ稼働中のシステムは、担当していたSEや運用の人間にそのノウハウがほぼ独占的に属人的に委ねられている。

その間企業のシステムは、専門のシステムのための独自の言語で開発されてきた。15年ほど前にオープン化の世界に移行したことで開発言語なども一変しているが、当時開発された独自OSによるシステムは現在もまだ稼働中であることが実態だ。

属人的なスキル・ノウハウの引き継ぎは難しい

まさに今稼働しているシステムの今後やいかにという追い詰められた局面を迎えているわけだが、会社側はそのリスクを軽く見ているので、別の人間をアサインすればどうにかなると思っている。

しかし当の担当者は、引き継ぎにはほぼ口頭による技術移転などアナログなスキル移転が必須のため、時間がかかると心配している。間違いなく企業のシステムは大きなリスクを抱えることになるだろう。

多くの中小企業が抱える課題、「情報システムを分かる人が1人しかいないことによる、何かあったらどうする問題」を象徴するような現象だ。つまりスキルやノウハウなどの職人技はオートマチックに伝承できないものが多い中で、どのようにしてこの問題を克服するのだろうか?

情報システム担当だけでなく、中小企業における本質的な課題である人的スキルの引き渡しのうまい方法は、中小企業のみならず多くの企業にとって長年の課題となっている。

ちなみにナレッジマネジメントというITのシステムは用意されているが、実際にうまく運用、活用されているとは言い難い。さてさて万能ではないITはこの課題をどう解決するか、期限は迫っている。

プロフィール

伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

1956年秋田生まれ。矢野経済研究所でのIT産業の調査・研究業務に従事した後、1998年にIT調査会社ノークリサーチを設立し、代表取締役社長に就任。現在に至る。中堅・中小企業(SMB)市場のIT調査を得意とし、SMBのIT利用実態に詳しい。様々な関連業界誌で積極的な執筆も展開中。