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モノと道具を再構築する

2014.08.04

クラウドは本当に中小企業で使えるの?

伊嶋 謙二

ITACHIBA会議レポート

効率 危機管理 クラウド 競争 IT 生産性 成長戦略

「損しない」ではなく「儲ける」ためのクラウド

先日小さな組織の未来学でもご紹介したITACHIBA会議(ITに関わる人々による、異立場(イタチバ)で討論を行い、ITに関わる人や企業に役に立つ場を提供する活動)で話しあった内容についていくつかを、数回にわたって紹介したい。今回はクラウドサービスについてだ。

ITACHIBA会議では、クラウドサービスを提案するベンダーと利用するユーザー企業、双方の見解を別々に述べさせて、最終的に全員で討議しあうという方法をとった。

その中で、現在、特に話題に上っている「クラウドが企業にとって役立つ活用方法とは何か」という点について、かなり見解の違う回答が得られたので、考えてみたい。

ベンダーはクラウドサービスについて、「ユーザーにとってクラウドの最大のメリットは、無料トライアルなど費用をあまりかけずに試せることだ。そのためまずはトライアルとして使ってみて、それから自社にあった使い方などを見極めて、本格的に使い始めることが良いはずだ」と考える。更に「クラウドは安いのだから、中小企業には最適である」と考えている。

しかし、ITを導入するのに、「安いから」が理由でいいのであろうか。中小企業の経営者も情報担当も結局は企業として儲けるという気持ちでシステムを検討してもらうことが肝要だ。

ところが実際は、損しないようにという気持ちでシステムを検討されていることが多いように感じる。そうではなくて、儲けるためには仕事のやり方を変えることまで思い切りやることだ。つまり仕事のやり方を変えるためのツールにITを活用することだ。

多くの企業では、仕事のやり方は変えないで、ITツールだけ変えてビジネスをうまく回したいと考える。

「これだとITシステムは単なるコストになってしまう。ITシステムを使って会社全体の事業をドライブして儲けるという方向に持って行くことが、今後のITへの取り組むべき姿勢だ」と、あるベンダーは指摘する。

ITシステムに合わせるか、仕事のやり方にITを合わせるか

一方、ユーザーにとっては、「ITが企業のどの部分で効果が出るか、あるいは欲しいかを見極める、理解することが重要だ」としている。例えば、端的にいえば社内のコミュニケーションが変わることのメリットが大きい場合もある。

「余計な電話代が減った、余計な稟議決済などでのコンセンサスをとる手間が省けるので、電話代が減るのと同時に社内の稟議決済のステップも省かれ、そういうことを含めて大きなコスト削減になっている」と、儲けるための第一歩として、グループウェアなどの情報共有システムとしてクラウドを入れることによるコスト削減の効果を強く感じているユーザー企業も確かにいる。

しかし、ユーザー側では本質的にいろいろなリソースが不足している場合が多い。社内には、クラウドも含めITの情報やそのシステムの良さや活用することのメリットなどをじっくりと把握して理解すること、そして経営を含め情報システム担当として企業トップに対し導入するための提案を上申する力が不足している。

関連していえば、だからこそユーザーにとって困ったときに聞くことができるベンダーの存在は、非常に重要だといえる。

自分でネットで調べれば分かることもあるが、その調べ方が分からない時に相談に乗ってもらえる人がいることはユーザーにとっては極めて心強い。多くのユーザー企業にとって、外部の販売店やSI、ベンダーは頼りになる存在だ。

クラウドサービスなどのシステムはパッケージ(既製品)であることが前提になる。今までのオンプレミス(自社内導入)で構築して、相談に乗ってもらって導入したシステムは、自分好みに作り変えてもらった(カスタマイズ)システムがほとんどだ。

そのため、自社の業務などの仕組みや仕事内容を理解してもらった上でシステムを構築してもらうユーザーとベンダー(販売店)との関係は、大なり小なり今後も変わらないだろう。 クラウドを安さだけでほいほいと導入するという安易な成長見込みは、中小企業向けのビジネスとはいえ、ビジネスとして成立する可能性は現実的に低いと言わざるを得ない。

また、ベンダー(提案する側)にとって考えておかなければならないことは、「ユーザーに安心して使ってもらえるサービスを継続してサポートしていくことが重要」ということ。しかし「クラウドサービスはすぐに使えてすぐ止めることができる機動力が売りだが、一方で提供業者がつぶれたらその瞬間にサービスが停止してしまう怖さも併せ持つこと」を忘れてはいけない。

ベンダーでも気が付いているリスクとしての発言なので、あらかじめ提案の際にユーザーにアピールするのであれば安心だが。

プロフィール

伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

1956年秋田生まれ。矢野経済研究所でのIT産業の調査・研究業務に従事した後、1998年にIT調査会社ノークリサーチを設立し、代表取締役社長に就任。現在に至る。中堅・中小企業(SMB)市場のIT調査を得意とし、SMBのIT利用実態に詳しい。様々な関連業界誌で積極的な執筆も展開中。