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人を組み替える

2014.06.18

「好き」の本質は「努力の娯楽化」

楠木 建

競争のために一番大事なこと

競争 差別化 意識改革 成長戦略 違い 危機管理 オーナー 生産性

前回の続きです。ここで議論している「好き嫌い」はあくまでも仕事の話で、趣味の話ではないということに留意してください。

趣味と仕事の違いは、「自分のためにやる」か「他人のためにやる」かということです。当たり前ですが、他人のためにならないと、仕事にならない。競争がある中で人に必要とされなくては商売になりません。商売や経営の好き嫌いは趣味のそれとは異なります。

なぜ人に必要とされるほどいい商売ができるかといえば、それは何かについて、よほど上手だからですよね。上手になるためには、継続的努力の投入が必要。

なぜそれができるかというと、結局のところ、「好きだから」。つまり仕事にとっての「好き」の本質は、「努力の娯楽化」なんです。

「好きこそものの上手なれ」と昔から言いますが、努力が娯楽化できれば、その人は楽しいことだけやっているのに、外から観察していると努力をしているように見える。その結果、他の人よりそれが上手になるので結果として仕事もうまくいく。

原点にあるのはそのこと自体が「好き」だということです。大事なのは理屈抜きに「好き」なことで、理屈があればそれは「良し悪し」になる。

「どうしてこれを選んだの」「こちらの方がコストパフォーマンスがいいから」みたいな理屈が出てくるのであれば、それは「好き嫌い」ではなく「良し悪し」の問題になってしまいます。

前回も話しましたが、大切なのは、「好き嫌い」の対象が表面的な「職業」や「商材」ではなく、もう一段抽象度の高い、仕事を支える「論理」であるということです。

今の子供に「将来どんな仕事をしたいですか」と聞くと男の子はみんなサッカー選手、女の子はみんな女子アナって言いますけど、みんながそうなれるわけがない。みんなが「好きなことを仕事にする」なんてことはそもそもできるわけがないんです。

私は音楽やステージショーで食べていきたかったのですがそれは無理だったので、「ステージショーの仕事がしたい」ということの本質が何なのかを考えてみました。

ステージショーというのは、お客さんの目の前に出て行って喜んでもらえればOK、ブーイングを浴びたらそれはダメ、という世界です。「目の前にいるオーディエンスから直接フィードバックをもらえる仕事が好き」。

これが僕の好きな仕事の本質です。私にとっては、授業も本も、ステージショーと同じで、良かったらOKだし、ダメならダメだといわれる。そういう論理をもった仕事が自分は好きだということです。

自分の話を続けると、私は「動員できる資源の量」にほとんど関心がありません。「俺が一声かければ100人集まる、10億円の金が動く」と言うことをやりたい人もいるでしょうけど、私はそういうことには興味が無い。

10人ぐらいのお客さんの目の前で踊る、温泉旅館のステージショーも悪くないのです。「オーディエンスからの直接のフィードバック」は満たされますからね。

自分の「好き」が全部満たされるなんてことはありません。好き嫌いだって、具体的なレベルでは妥協に次ぐ妥協、あきらめに次ぐあきらめです。

でも、その背後にある論理を考えることによって、本質的なレベルで自分の「好き」を満たしていることはできる。

もちろん「俺はでっかい組織の頂点にたって、一声でこれだけでかい資源を動員できる男になる」という人もいます。好き嫌いですから、それが好きな人はどうぞやってください、という話です。

世の中、ひとりひとり違います。お互い尊重しあって多様性が広がり、顧客の選択肢も広がる、というのが成熟した社会です。その最前線にいるのが、「好き嫌い」を前面に出しやすい小さな組織にいる皆さんではないですか、と私は強調したい。

Image (c) Syda Productions - Fotolia.com

プロフィール

楠木 建 (くすのき けん)

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。ブックオフコーポレーション株式会社社外取締役。全日本空輸株式会社経営諮問委員。マネックス証券株式会社アドバイザリーボードメンバー。1997年から2000年まで一橋大学イノベーション研究センター助教授を兼任。1994-1995年と2002年、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授を兼任。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。