カネを活かす

2014.05.16 資産を金(きん)に変えてみる 中田 考 イスラーム式経営術

貨幣が現物資産を離れるとき

元々、紙幣とは正貨の金(きん)の代わり、一種の債券でした。ところがニクソン大統領がドルと金(きん)とを引き換えることの停止を一方的に宣告し、ドルが金の裏付けを失い、政府が勝手に刷ることができる紙切れになった後も、各国政府の談合により、実体的裏付けのないドルを基軸通貨とすることによって、全ての国の紙幣がいわば国家が国民から強制的に借り上げた富の一種の債券となったのです。

そして現代の資本主義経済では、利息によって金(カネ)が金(カネ)を生むだけでなく、債券の一種である金(カネ)による債券の売買というマネーゲームで一瞬にして巨万の金(カネ)を稼ぐことも出来ます。しかしそうして儲けた金(カネ)は、コンピューターの電気信号でしかありません。

一方、イスラームの通貨観では、正貨は金と銀です。しかし、イスラーム世界に限らず古来より金こそ通貨の王様ですので、簡略化のためにここでは金貨に話を絞りましょう。

金(きん)には、貨幣としての記号性もありますが、先ずはモノであり、モノとして存在とその固有の価値があります。金は近年ではコンピューターの電子回路などにも使用される工業金属としての価値も注目されていますが、なんといっても古来より珍重されてきたのは、その色褪せぬ美しさです。

しかし、いかに価値があり美しくとも貨幣としての金はただ沢山持っていても仕方がありません。第一かさばるし、置いておくと盗まれるのではと心配ですし、持ち運ぶには重い。つまりは、邪魔になってくるのです。

私は金本位制を復活させるために、最初のイスラム王朝であるウマイヤ朝ディーナール金貨を真似て4.2グラムの22金の金貨をつくってみました。

もっとも、金貨とホルト造幣局から文句が付くから、と業者が二の足を踏んだので妥協して小判になってしまったのですが、ともかく30枚ほど造ってみました。しかし、結局いろいろ配ってばらまいてしまい、手元にはもう2枚しか残っていません。

金(きん)は天下のまわりもの

金(きん)は、それ自体の価値と希少性故に、政府の恣意でいくらでも発行できる紙切れに過ぎない紙幣と違い、総量が決まっており、価値尺度としての安定性は抜群です。

マレーシアの国際イスラーム大学の経済学者の研究によると、羊の値段は預言者ムハンマドの時代から約1ディーナールでほぼ変っておらず、生活用品などの価格も同様だそうです。

そして金(きん)はモノであるが故に、一定量を超えると邪魔になるので、他のモノに変えて処分することになります。そしてイスラームにおいては、利息の禁止と債権による債権の売買の禁止により、金(カネ)によって金(カネ)を増殖させるマネーゲームは行なわれません。金(きん)はモノとサービスが流通するための潤滑油なのです。

一方、不換紙幣は信用創造によって何十倍にも増殖し、コンピューターの電気信号になって世界中を駆け巡っているようです。ところが、その莫大な金の8割は世界の人口の2割が、富の4割は1%の人間が所有しており、世界人口の7分の1が飢餓に苦しんでいます。

つまり、モノ性を失い純粋な記号になった現代の資本主義のお金(カネ)は、流動性が高まったようでいながら、その多くが帳簿上でカネどうしがやりとりされているだけで、いわば「空回り」しており、モノやサービスの最適配分を実現する流通を導く手段という点からは、機能不全を起こしているのです。

あなたも試しに資産を金(きん)に変えてみてはどうでしょう。きっと何かが動き出すはずです。

プロフィール

中田 考
(なかた こう)

1960年岡山県生まれ。株式会社カリフメディアミクス代表取締役社長/同志社大学高等研究教育機構客員教授。専門はイスラーム法学・神学。1986年東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1992年カイロ大学大学大学院文学部哲学科博士課程修了、博士号取得。在サウディアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授を経て、2003年から2011年まで同志社大学神学部教授を務める。2011年よりアフガニスタン平和開発研究センター客員上級研究員。2013年株式会社カリフメディアミクス設立。著書に『一神教と国家』(集英社新書・内田樹との共著)、『イスラームのロジック』(講談社)など。