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モノと道具を再構築する

2014.05.01

「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生

大谷 悠

空き家をチャンスに!

競争 意識改革 地方 成長戦略 制度 景気 危機管理 差別化

都市の衰退がもたらす人口減少と空き家問題

人口減少、産業構造の転換によって高度成長を前提とした経済システムが揺らぐ日本。都市にも大きな変化が起こっています。

総務省の統計によると、2008年の空き家数は全国で757万戸、空き家率は過去最高の13.1%に達しています。この数値は地方都市で特に高く、和歌山市で17%、甲府市で約20%、元工業都市などでは更に深刻です。

このまま推移すると、2028年には全国で23.7%にまで上昇するとの試算があります。このような状況の中で「空き家」は都市の衰退を表す言葉としてネガティブに語られがちです。

しかし一方で、不動産価値が低下し安価に使える空間が生まれている状況は、新たな事業を立ち上げる人にとっての絶好のチャンスでもあります。

本連載では、いち早く人口減少と空き家問題が深刻化したドイツの地方都市ライプツィヒを中心に、空き家に生まれた新たな事業とこれからの都市の持続可能性について見て行きます。

筆者は現在、ドイツ中部の人口50万人ほどの都市、ライプツィヒに暮らしています。市内を歩いていると、至るところで建物のファサードにかかる鮮やかな黄色地の大きな垂れ幕を見かけます。

ちらっと中を覗いてみると、住人の若者たちが自ら工具を持って埃だらけになりながら建物を改装しています。工事が完了した物件は、住居にとどまらず、ギャラリーやアトリエ、音楽スタジオ、小さなショップ、カフェなどクリエイティブな用途に使われています。

これらの建物は「ハウスハルテン」という地元のNPOが仲介し運営している物件です。今では「ハウスハルテン」の物件は「ちょっとオルタナティブな雰囲気漂う、文化的なホットスポット」として一般市民にも浸透しています。

「ハウスハルテン」の活動は、ライプツィヒの劇的な衰退の中で生まれました。

ライプツィヒの位置

ライプツィヒは産業革命以降人口が急増し、1930年代には70万人を超え、ベルリンに次ぐ人口を有していました。ところが二次大戦後に旧東ドイツに組み込まれると徐々に産業が衰え、1989年にベルリンの壁が崩壊すると基幹産業が空洞化し、一気に人口が流出。2000年には人口が50万人を割ります。

ライプツィヒの人口

中心市街地に立地するいくつかの地区では空き家率が50%を超え、市全体でも20%弱にのぼっていました。空き家の多くは東ドイツ時代からメンテナンスされずに放置され、外見も内部のインフラも目も当てられないような状況でした。こうして成長の時代を終え都市の危機に直面したライプツィヒは、欧州の「縮小都市」の代表例として知られるようになりました。

90年代のライプツィヒ (c)Stad Leipzig ASW
90年代のライプツィヒ (c)Stad Leipzig ASW
出口の見えない都市の衰退により、当時の不動産市場は完全に破綻していました。長らく放置されていた建物に高額のリノベーションを施したところで、投資を回収することは到底不可能です。そこで市はそのような空きや物件を取り壊し、緑地にすることで周囲の住環境を向上させようとしました。しかし中心市街地に立地する空き家の多くは100年以上前に建設され、歴史的にも重要なものであることが少なくありません。

このままでは街のアイデンティティまで破壊されてしまうかもしれない、と危機感を感じた住民たちが、不動産市場から見放された建物を何とか救うべく立ち上げた団体、それが「ハウスハルテン」だったのです。

空き家再生のプロフェッショナル「ハウスハルテン」

2004年秋、衰退にあえぐライプツィヒの一地区であったリンデナウで「ハウスハルテン」が設立されました。地元の住民団体「リンデナウ地区協会」のメンバーが中心となり、有志の市民、行政職員、建築家らが立ち上げに参加しました。

「ハウスハルテン」の最大の特徴は、空間を誰かに使ってもらうことで最低限のメンテナンスをしてもらうという「使用による保全」をコンセプトとしていることです。2005年に始まった「家守の家」は、通常5~10年の期限付きで空き家の暫定利用を促す「ハウスハルテン」を代表するプログラムです。

所有者は、使用者に居てもらうことで建物の維持管理費を免れ、さらに自己負担なしで建物の最低限のメンテナンスと建物への破壊行為を未然に防ぐことができます。一方使用者である「家守」は、原則家賃負担なしで、自分たちの活動や生活に使える自由な空間を得ることができます。このように、「家守の家」は所有者と使用者の双方にメリットのあるプログラムなのです。

「家守の家」の仕組み

ハウスハルテンは公益法人(登記社団)です。立ち上げ当初は市から補助金を受けていましたが、現在では使用者が毎月払う寄付金によって独立採算で運営されています。メンバーは約20人で、そのうち2人が職員でオフィスに常駐しています。他のメンバーは住民団体、建築家、都市計画家、市の職員など様々な職能を持つ人々です。

ハウスハルテンのメンバーたち (c)HausHalten e.V.
ハウスハルテンのメンバーたち (c)HausHalten e.V.

ハウスハルテンのオフィス外観
ハウスハルテンのオフィス外観

「家守の家」は現在市内に20件ほどあります。ほかにも様々な空き家再生のプログラムが行われていて、2012年末までに市内で計60軒近くの空き家が「ハウスハルテン」によって再生されてきました。市は「ハウスハルテン」の活動を都市再生戦略に積極的に組み込んでおり、衰退の激しい都市再生重点地域に点在する空き家のオーナーにコンタクトをとって「ハウスハルテン」のプログラムを活用するように促しています。

2009年、連邦政府建設省の「統合的都市発展に寄与する重要な手法」として表彰され、「ハウスハルテン」はまさに空き家再生のライプツィヒモデルとなりました。

現在では他都市にも同様の取り組みが広がっていて、特に旧東ドイツに位置し、同じく人口減少と空き家問題に窮している都市であるケムニッツ、ハレ、ゲルリッツ、ツビカウなどにおいて次々と「ハウスハルテン」が設立されています。

「ハウスハルテン」が近年特に注目を浴びている理由は、空間の「不動産価値」の上昇が見込めない物件に対し、「使ってもらうことで建物の価値を保つ」という空間の「使用価値」に一度立ち戻ったことで、若者やアーティストなど新たな層の人々を衰退都市に呼び込むことに成功した点です。

次回に続きます)

Image (c) Yu Ohtani

プロフィール

大谷 悠 (おおたに ゆう)

2010年千葉大学建築学科修士課程修了。大学院卒業と同時にドイツに渡り、ラオジッツ産炭地域の地域再生公社にて褐炭露天掘り跡地の再生計画と住民参加型芸術祭「Paradies 2」にかかわる。その後2011年5月ライプツィヒの空き家にて「日本の家」を立ち上げ、2012年2月より同登記社団共同代表。2012年夏から日独の都市再生と空き家・空き地問題に関する交流・提案・実践のワークショップ「都市の『間』」を行っている。2012年9月よりライプツィヒ大学博士課程所属。日欧の市民のボトムアップによる地域再生と都市コモンズをテーマに研究中