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第1回(連載2回)
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社会問題化するうつ病対策には 職場復帰を支援する リワーク・プログラムの整備が急務
第1回(連載2回)

2014.06.17   構成:21世紀医療フォーラム取材班 赤堀たか子
文責:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也

樋口輝彦 氏
国立精神・神経医療研究センター理事長・総長
樋口輝彦 氏
1972年 東京大学医学部卒業。
1976年 埼玉医科大学精神医学講座助手。
1981年 マニトバ州立大学医学部生理学教室神経内分泌研究室留学(カナダ)。
1983年 埼玉医科大学精神医学講座講師。
1989年 群馬大学医学部精神神経学講座助教授。
1994年 昭和大学藤が丘病院精神神経科教授。
2000年 国立精神・神経センター国府台病院院長。
2004年 国立精神・神経センター武蔵病院院長。2
007年 国立精神・神経センター総長。
2010年 現職
[公 職]日本学術会議会員

厚生労働省の「平成24年度労働者健康状況調査」によれば、メンタルヘルス上の理由で連続1カ月以上休業、または退職した労働者がいる事業場は8.1%。今や企業にとってメンタルヘルスは、避けて通れない課題である。

近年のうつ病の特徴や企業の対応、リワークの現状などについて、国立精神・神経医療研究センター理事長・総長である樋口輝彦氏にお話を伺った。
(構成:21世紀医療フォーラム取材班 赤堀たか子 文責:21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也)

近年、うつ病の患者数は右肩上がりに増えており、社会問題にもなっています。樋口先生は、こうした状況について、どのようにお考えですか。

樋口 うつ病を訴えて受診する人は、この10年間で約2倍にまで増えました。2008年には、年間の受診者数が100万人を突破しています。増加の背景には、労働環境の厳しさがあります。景気が低迷する中、終身雇用制度が崩れ、完全失業率が4%を超えるなど、雇用不安が広がっています。さらに、業務に高度な技術水準が求められ、業績評価制度が導入されたことも加わり、6割以上の労働者が仕事に関してストレスを感じています。

こうした過酷な状況に追い込まれた結果、うつ病を患う労働者が増えており、自殺者に占める被雇用者の割合は、約4割に上っています。

多様化するうつ病。
若者に増えるうつ病は、「現代型」や「非定型」

うつ病患者の増加に加え、うつ病のタイプの多様化も指摘されています。

樋口 かつて、うつ病は40~50代の病気でした。その患者は、企業でいえば、いわゆる中間管理職の人たちです。責任が重くなり、その責任を果たすために、“几帳面”に“生真面目”に仕事に取り組み、一生懸命頑張った末に、だんだん力尽きていく。こうしたプロセスの中でうつ病を発症してくるタイプです。これこそが、まさに典型的うつ病でした。

一方最近のうつ病は、40~50代のピークの他に、もう1つ20~30代の若年層に大きなピークが出てきました。こうした若い世代のうつ病は、「現代型うつ病」や「非定型うつ病」と呼ばれ、40~50代のうつ病とは異なる特徴があります。

例えば、40~50代のうつ病には、抗うつ剤が非常によく効き、服薬と休息とで十分改善していきます。しかし、若い世代にみられる現代型うつ病の患者には、なかなか薬が効きません。

また、うつ病になった原因を患者自身がどのように捉えているかという点にも大きな違いがあります。かつてのうつ病の人は、“申し訳ない”“自分が悪い”と、自責的になったものです。ところが、現代型うつ病の若い人たちは、「私がうつになったのは、あなたのせい」 「会社が私をうつにした」といったように、責任転嫁型、被害者型になってきています。したがって、現代型うつ病は従来型のうつ病とは異なる治療法が必要になります。

うつ病は誰でもなりうる病気。
メンタルヘルスとリワークは、全ての企業の課題

うつ病患者の増加やうつ病のタイプの多様化といった問題は、企業にとっても無視できない問題になってきています。

樋口 今では規模の大小に関わらず、どの企業も一定の割合でうつ病による長期休職者を抱えるようになっています。もはやうつ病は、特別な人だけが罹る病気ではなく、誰でも罹り得る病気と言えるでしょう。そして、うつ病予防だけでなく、うつ病を患った人のリワーク(復職)も、全ての企業にとって無視できない、かつ喫緊の課題となってきています。

リワークの現状は、どうなっているのでしょうか。

樋口 古くから、統合失調症は大変難しい病気であり、治りにくい病気であると認識されていました。一方で、うつ病は治りやすい病気であると考えられてきました。その結果、統合失調症に関しては、リハビリテーションも手厚く、デイケア、グループホーム、作業療法など、いろいろな手立てが講じられてきたのに、うつ病は片隅に追いやられ、リハビリテーションなどもありませんでした。

しかし、うつ病は放っておいて簡単に治る病気ではありません。スイス・チューリッヒでの研究によれば、再発するケースが約50%あり、その約3分の1は慢性化しています。つまり、うつ病も統合失調症と同じくリハビリテーションが重要であり、ソーシャル・サポートが必要です。

にもかかわらず現在、うつ病の診療にあたる精神科医の多くも、うつ病は放っておいても治るという教育を受けているため、うつ病患者を診察して寛解(症状が消失すること)と診断すると、いきなり職場復帰を指示してしまいます。その結果、それまで自宅で休養していた患者は、いきなり職場に放り出されるため、そこで混乱し、周囲についていけずに自信を失って潰れてしまう。そうした状況が、これまで繰り返されてきたわけです。

第1回終わり(第2回に続く)