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認知行動療法が効果的になるための条件とは

2012.12.04   東邦大学医療センター佐倉病院 メンタルヘルスクリニック臨床心理士
浅海敬子氏

東邦大学医療センター佐倉病院 メンタルヘルスクリニックの臨床心理士である浅海敬子氏に、認知行動療法についての最後の連載、5回目の記事をお届けする。

浅海敬子氏
浅海敬子 氏
早稲田大学卒業、商社および文部省外郭団体職員を経て、横浜国立大学研究科・教育心理学修士課程修了。臨床心理士.総合病院精神科での心理療法を基本としつつ、スクールカウンセラー、企業EAPなどを兼務。現在、東邦大学医療センター佐倉病院 メンタルへルスクリニック臨床心理士、東邦大学理学部講師、「心の相談室 Q’s Office」主宰。

認知行動療法は基本的にセルフヘルプ(自助)の治療法です。必要なことを学んだ後は、それを自分で使いこなしていくことで、心身の健康を図っていきます。従って、そうした方法が効果的であるための一定の条件が想定されているといえます。本連載の最後に、認知行動療法が効果的に活かされるための、前提条件についてご紹介します。

1. 自分の考えやイメージ、感情や気分が把握できるか

認知行動療法の出発点は、まず否定的なスキーマを持った個人がいて、心を揺らす出来事が起こると、スキーマに影響された自動思考(イメージを含む)をはじめ、気分・感情、身体・生理、行動の4領域に困った影響が出て、それが相互循環的に影響し合っていく、ということの理解です。そこから、その4領域に起きた問題や症状を軽減するような認知の修正やセルフコントロール法などを実践していきます。

2回目にご紹介した4領域を思い浮かべていただけるとわかりやすいでしょう。

うつ症状に苦しんでいる場合、症状を引き起こしたり、症状を強めた出来事を4領域図で整理してみると、自動思考のクセや偏りが見つかり、それが困った気分・感情を引き起こしたり、身体症状にもつながっていくことが理解できるようになります。

まず、自分の自動思考や気分・感情を言葉として捉えて表現することが、とても大切な作業になります。こうした自分の思考や気分・感情を把握することが、認知行動療法が効果的であるための最初の条件となります。

とはいえ、自分の頭に浮かんでいる考えや思いを言葉やイメージとして把握することや、その時の気分や感情がどのようなものかを把握することは、簡単そうで案外難しい場合もあります。初めは慣れないため、4領域図に書き込もうとすると、困る場合も少なくありません。これは少々練習が必要です。自動思考と気分・感情が対応するように気をつけながら振り返る練習、例えば、「このような自動思考があるからこんなに落ち込んだ」「こんなふうに思ったから屈辱感と怒りを感じて、肩や腕に力が入った」など、自分で納得できる4領域図を作っていく練習です。

ただし、自分が何を考えていたのか全然思い浮かばない、漠然ともやもやした気分はあったがどのような感情かわからないといったように、自動思考と気分・感情の把握がとても難しいと感じる人は、ここで紹介したような標準的な認知行動療法は、うまく適用することが難しいとも考えられます。

自分の心を強くかき乱す考え・イメージや、そこから起こる非常に辛い感情を遮断したり、苦痛を引き起こすような記憶を思い出さないようにしたり、自分自身を深く見つめることを回避するなど、人の心には、自分の強い苦痛を回避する無意識的で自動的な防衛の仕組みが作られます。どんな人にも程度の差はあれ見られるもので、こうした防衛によって私たちは、時に非常に辛い体験をしても何とかやっていくことができます。

しかし、苦痛の大小に関わらず、いつもこの回避の防衛が強く発動されるような、行き過ぎた心の仕組みができてしまうと、自分の思考や気分・感情を把握することがとても難しくなります。また、苦痛を引き起こしそうな物事を回避することにもなりやすく、私たちが成長していくのに必要な体験ができなくなったり、生きていくのに必要な働くことや人間関係作りなどができなくなるといったことも起こりかねません。

こうした仕組みはほとんど無意識的・自動的に働いているので、その人の心がけが悪いなどとして扱うことはできません。回避の防衛が必要以上に常時自動的に働いているような場合には、認知行動療法を使う前に、防衛が形成されてきた背景の理解と共に、適応的な防衛の仕組みに変えていくようなアプローチが必要かもしれません。カウンセリングなどの専門的援助が勧められる場合もあると考えられます。