トップページインタビュー部下を公平に扱うことは 給与のアップよりも大切である
Good Doctor NET AGING Web 宇治おうばく病院 うつ病~こころとからだ 話してみよう うつの痛み うつ病・認知症コンソーシアム 冊子バナー 特別協賛:シオノギ製薬 ココ朗くん

部下を公平に扱うことは 給与のアップよりも大切である

第2回(2回連載)

2011.07.05   北里大学大学院 産業精神保健学教授 田中克俊 氏

田中克俊 氏
田中克俊(たなか・かつとし)氏
北里大学大学院 産業精神保健学教授。医学博士。1990年産業医科大学医学部卒、(株)東芝、昭和大学を経て現職。

うつ病など精神疾患の発症を防ぐための施策として注目される「組織行動学」。北里大学大学院産業精神保健学教授の田中克俊氏は労働者のモチベーションを高めるために、管理職においては特に、「組織公正性」を重要視した対応がポイントだという。インタビューの第2回目はこの「組織公正性」の実践法について伺った。
(21世紀医療フォーラム取材班 狩生聖子 文責:日経BP社 BPnet編集プロデューサー 阪田英也)

インタビュー後半ではメンタルヘルス施策の一次予防として、先生が最も注目している「組織行動学」を応用した手法について詳しく伺いたいと思います。まず、組織行動学についてわかりやすく解説をお願いします。

田中 「組織行動学」とは組織が行動することではなく、組織の中の人間行動を研究する学問です。 つまり、組織の中における1人ひとりの心理や行動を考えるということです。職域とは複数の人が集まって仕事をするところであり、その中では1人ひとりの様々な心理や行動があります。人が集まって働くときの特性を踏まえ、職域のマネージメントに生かすことがメンタルヘルスの一次予防にとても有効だと考えています。

海外ではかなり普及しているのでしょうか。

田中 欧米では1960年代から盛んに研究され、職域にも積極的に取り入れられてきました。しかし、これまで日本の現場ではあまり応用されていません。

これまで、日本の労働者は、終身雇用制と年功序列に基づいた家族的な会社風土に守られてきました。そういった時代は、自然に組織はまとまり、あえて組織行動学を積極的に取り入れる必要はありませんでした。安定というキャリア的、心理的報酬をたっぷり受け取っていたわけで、労働時間は長かったものの、実質的なストレスは今よりも少なかったといえます。

しかし、成果主義の導入は、これはチームよりも個人を強く意識させるきっかけになったと思いますが、社員の心や行動にいろいろな影響を与えています。卑近な例でいうと、他のメンバーの功績に対しては、これまでは組織や会社のために良いことだと手放しで喜べていたのに、それは同時に自分の評価を相対的に下げてしまうのではと思ったり、隣の人の仕事を手伝うといった自分の目標管理シートにないことにはあまり価値を置かなくなりました。

組織へのコミットメントやチームワークが、日本の組織の強みであり、真の生産性を支えてきたはずなのに、終身雇用制の廃止や成果主義の導入は、こういった強みを壊しているようにも思われます。これは本来の目的とは明らかに違っているはずです。もちろん終身雇用制の廃止や成果主義導入の動きは止められないとは思いますが、日本人の遺伝子が個人主義的な考えに適応できるようになるには随分時間がかかるでしょう。

日本人の赤ちゃんは、どんなに厳しく躾をしても、なかなか欧米の赤ちゃんのようには独り寝ができないのと同じです。急に制度が変わっても日本人の心の遺伝子が変化するまでの間は、このギャップをどうにか埋めていかなければなりません。つまり、組織へのコミットメントやチームワークの心を傷つけないようなマネージメントをしていく必要があります。

成果へのプレッシャーをかけるだけの機能しか持っていない成果主義の導入は、頑張っているけど思ったような成果が上がらない労働者の「見捨てられ不安」を刺激してしまいます。こういった不安は、何かにつけ労働者のメンタルヘルスの脆弱性を高めてしまうでしょう。