トップページコラムメンタルヘルスケアの現場からうつ病回復の記録(1)うつ病と診断されてしまった
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うつ病回復の記録(1)うつ病と診断されてしまった

2011.04.12   2011.04.12 埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授 大西秀樹

新井芳則(仮名)さん、32歳、入社10年目。もともと真面目な性格で几帳面なところもあり、仕事ぶりがとてもよく、周囲からの評判もとても良い人です。また、社交的でもあり、部署の宴会にも必ず参加し、時には自ら宴会を企画することもあります。29歳のときに結婚。子供はまだいません。入社後は営業一筋に頑張り、新規顧客の獲得などに励んだ成果が認められ、この4月、係長に昇進しました。

係長になった当初は張り切って仕事に励んでいたようで、深夜の残業も連日こなしていました。しかし、8月頃から仕事中にぼんやりしている様子が目立つようになり、直属の上司から仕事のミスを指摘されることが多くなりました。部下も「係長は仕事ができないね」と陰口をたたいています。9月になると顔色も少しずつ悪くなり、表情も冴えず、明らかに痩せてきているようでした。

うつ病の症状に8つも該当

新井さんの体調を心配した上司の指示で内科を受診しましたが、血液検査では何も異常がみつかりません。この様子をみていた先輩の竹村さんは、新井さんに「最近、元気がないようだけどどうしたの」と話しかけてみました。すると新井さんは疲れ切った表情で話し始めました。

「4月に昇進した時はとても嬉しかったのですが、上司から営業成績をもっと上げるようにという圧力が猛烈にかかってきました。このころからあまりよく眠れなくて…。仕事が増えたので部下に回そうとしたら、『もうこれ以上はできない』との猛反発にあい、それ以後は部下との関係が今一つで…。8月頃からなんとなく落ち込んでしまって、何をしたらよいのかわからなくなってきました。仕事の意欲もなくなるし…。でも、これではだめだと思って、仕事の遅れを取り戻すために深夜まで残業したのですが、頭が回らないので能率が悪くて…。最近は食事ものどを通りません。私はもう限界です。私のせいで上司や部下に迷惑をかけているので、もう会社を辞めたほうがいいんじゃないかと思っています。妻に相談したら『そんなことは言わずにもっと頑張って』と言われたのですが、もう限界なんです」

新井さんは調子が悪そうです。これを聞いた竹村さんは、以前に出た講習会の資料を持ち出し、うつ病のページを開いてみました。そこには「うつ病患者は身体の不調を訴えることが多い」とかいてあります。診断基準(表1)をみると9つの項目が書いてあり、新井さんは表1のうち、(1)抑うつ気分、(2)意欲低下、(3)食欲低下、(4)睡眠障害、(5)精神運動抑制、(6)全身倦怠感、(7)集中困難、(8)自責感の8つが相当するように思われました。

竹村さんは新井さんに対して「今、体調も良くないみたいだし、仕事の重圧から辞めたいと思っているみたいだけど、精神的にも疲れているんじゃないかな。できれば、専門家のアドバイスを受けたほうがいいよ」と穏やかに伝えてみました。

これを聞いた新井さんは、「自分では、仕事で疲れているだけだと思ったんだけど、精神面の問題もあるのかな?でも、精神科は心の弱い人が行く所じゃないの?」と不安そうに訴えます。竹村さんは「僕も詳しいわけじゃないけど、友達でメンタルクリニックの先生に診てもらったらとても元気になった人がいたよ」と答えたところ、新井さんは「じゃあ、一度行ってみるか」と、しぶしぶ応じました。