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うつ病の啓発は、早期発見・早期治療につながる。 リワーク成功には、「リワーク・プログラム」の活用が重要 (3/3)

第2回(2回連載)

2010.10.12   国立精神・神経医療研究センター総長 樋口輝彦氏

英国の3大疾患は、「循環器疾患」「がん」「精神疾患」

他の先進国における精神疾患への対応についてはいかがですか。

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樋口 英国では、「循環器疾患」「がん」と並んで、「精神疾患」を3大疾患と位置づけています。それば英国の国民全体が、「精神疾患」の重大さを認識したからです。そしてこの認識と共に、「精神疾患」の治療に関わる医療費も手厚くしました。このような社会全体にまたがるコンセンサスが必要だと思うのですが、日本では「精神疾患」が4疾病5事業にも入っていません。

「隣に精神障害の人が住んでいたら、あなたはどう思いますか」「精神障害の人が恋人だったら、あなたは結婚を止めますか」―こういう日常的な問いかけによる国民の意識調査が、オーストラリアと日本で実施されたことがあります。その結果、日本人は、「精神障害」「心の問題」に対して、“差別意識が非常に強い”ということが歴然としました。やはり、そこから変わっていかないと根本的な解決は難しいと思います。

日本で「精神疾患」に向き合うことの重要性が決定的に遅れたのは、保健の教科書に「精神疾患」についての記述が全くないこと。そして、精神疾患の患者を医療機関の中に閉じ込めて、コミュニティの中に出すことをしなかった、つまり健常者との共生を行わなかったことなどがその原因です。身近にそういう人がいる経験をするのと、病院に隔離してしまうのとでは全然違います。

リワークには患者本人の強いモチベーションと、
受け入れ側の“物差し”が必要

うつ病患者のリワーク(復職)については、どのようにお考えですか。

樋口 うつ病に罹患した患者の大部分が職場に戻ることは可能であり、そのためにはリハビリテーションなど、寛解(症状が消失すること:編集部注)後のフォローアップが重要です。また復帰後、安定して仕事を継続していくことができるかどうかをみるには、少なくとも1年間は、主治医を中心とした医療チームが患者を継続してケアしていくことが必要です。

古くから「統合失調症は大変難しい病気であり、治りにくい病気である」。それに対して、「うつ病は治りやすい病気である」と考えられてきました。われわれが卒業した時点(1972年)の教育でも、「うつ病は放っておいても治る」という教育を受けました。現在、うつ病の診療に当たる精神科医の多くが、このような教育を受けており、うつ病治療に関してはこの意識から、いかに脱却するかが問題なのです。

したがって「統合失調症」に関しては、リハビリテーションも手厚く、デイケア、グループホーム、作業療法など、いろいろな手だてが講じられてきたのに、「うつ病」は片隅に追いやられていました。しかし周知のとおり、「うつ病」は放っておいて簡単に治る病気ではありません。リハビリがとても大事です。そういう認識になってきたのは、ここ20年くらいでしょう。

ともあれ、こうした流れから現在、リワークそのものに対する取り組みを行っているところが非常に限られています。そして少ないとはいえ、うつ病患者が職場に復帰する前段階として、復帰のためのプログラムがある。それはあってしかるべきで、なければないことによって起こってくるドロップアウトが当然あるでしょう。

「リワーク・プログラム」がなかった時代は、産業医が診察して『寛解』と診断すると、「まあ大丈夫でしょう。何月何日から復帰しましょう」と指示してしまう。するとそれまで家で休養していた人が、いきなり職場に出て混乱し、ついていけずに自信を失って潰れてしまう。リワークを目指す人たちにとっては、2ヵ月ないし3ヵ月の「リワーク・プログラム」は必須であるといえます。

ただ、うつ病患者でリワークを目指すといっても、その患者像は一定ではありません。「現代型うつ病」「非定型うつ病」を含め、リワークには困難な条件を複合的に持った人が、かなり混じっていると思います。そのような患者を対象とした研究も今後は必要になってくると思います。

また患者本人が、“心から職場復帰を望んでいる”かどうか。実は、それが一番重要です。
「何がなんでも復帰したい」という強いモチベーションがあって、「リワーク・プログラム」に取り組んでいる人は、簡単ではないけれど必ず前に進みます。そして、受け入れ側の職場で困っているのは、“リワークを目指す患者が、どのような状況になったら職場に戻ってうまくやっていけるのか”という見極めです。そのための“物差し、”が欲しいわけです。

それでいま期待されるのが、そのための客観的な指標の研究です。すでにいくつか研究が始まっているようです。「光トポグラフィ」を用いた職場復帰の時期を予測する研究などもそのひとつでしょう。これらが実用化されれば、産業医や企業の人事部に説得力を持って、リワークする時期やタイミングを選択し推薦することが可能になるでしょう。