Good Doctor NET AGING Web 宇治おうばく病院 うつ病~こころとからだ 話してみよう うつの痛み うつ病・認知症コンソーシアム 冊子バナー 特別協賛:シオノギ製薬 ココ朗くん

うつ病の啓発は、早期発見・早期治療につながる。 リワーク成功には、「リワーク・プログラム」の活用が重要 (2/3)

第2回(2回連載)

2010.10.12   国立精神・神経医療研究センター総長 樋口輝彦氏

img

うつ病の正確な診断・治療が、
プライマリケア医に求められている

うつ病の啓発が進み、早期の段階での受診する人が増えたことは好ましいと考えてよいのでしょうか。

樋口 うつ病の啓発が進んで、気軽に受診するようになったことは、少なくとも早期発見・早期治療につながります。ただ早期発見をしたら、どういう対応をしていけばいいかという方法論については、まだ検討しなければいけない部分があると思います。

問題点としては、啓発が進んだおかげで、うつ病に類似した「うつ状態」、例えば、適応障害で落ち込んでいるだけとか、性格的なところに根ざしていてその反応として起こった「抑うつ状態」と思われるものまで、うつ病にしてしまったこと。これらは、うつ病学会でも今後の対策が討議されています。

本来は、プリマリケア医の方々、特に開業医には、うつ病と「うつ状態」や「抑うつ状態」の違い、その治療法について正しい知識を持っていただいて診療に当たっていただきたい。つまり、患者が「眠れません」「食欲がありません」「元気が出ません」と訴えたからといって、「はい、うつ病ですね」ということは即断すべきではない。

もちろん、「うつ状態」も放っておけばいいというものではないので、カウンセリングなり、いろいろなケアの仕方を考えなければいけないわけですが、一律に、「うつ病です」ということにしてしまうと、病気をどんどんつくってしまうことになりかねません。そこには、うつ病の正確な診断・治療の方針をしっかり立てる必要性があります。

しかし現在、うつ病患者は急増しており、もしプライマリケア医の方々が、このようなうつ病の初期症状を持つ患者を診ていただけないとなると、精神科、心療内科の専門医だけではうつ病診療がパンクしてしまうという状況にあります。

この問題を解決するためには、どのような方策が必要なのでしょうか。

樋口 医師が精神疾患領域をきちんと学ぶ「教育システム」を構築することが重要です。まず若い医師には、精神疾患の診断や治療を学んでもらうために、研修医の初期臨床研修のプログラムである“スーパーローテーション“で、精神科を研修することが求められます。しかし、最近になって医師不足問題を解決するという方針から、“早く一人前の医師をつくれ”という大号令のもと、マイナーな科である「精神科」の研修は、このスーパーローテッションから外されそうになっています。

確かに、外された「精神科」の研修プログラムは、プライマリケアで遭遇する機会の多い「うつ病」「不安障害」「睡眠障害」の他に、「統合失調症」「アルツハイマー」など、欲張ったボリュームのある構成となっていたことも事実です。本来は前者3つの疾患についてしっかり学ぶことが重要であり、ここだけは残すべきだった。

しかし、このように「精神科」をスーパーローテーションから外してしまうと、研修医は精神疾患を持つ患者との接点が全くなくなってしまい、例えば勤務医にならないでそのまま開業医となる若手医師は、精神科の診療を全く知らずに実際の診療(臨床)に臨むことになります。そして、前述のようにそれらしい主訴があると“何でもうつ病”と診断することにつながりかねません。

もう1つ、精神科専門医の間にも「精神科は全診療域の中でマイナーである」という“被害者意識”のようなものが強くあって、「精神医療は重要である」ということを、医学会全体に啓発し認識してもらう努力をしてこなかったし、現在もその理解が得られていないという状況があります。

これには、精神疾患の代表としての「統合失調症」にフォーカスを当て過ぎたため、「統合失調症」による妄想や幻覚など、外から見ると理解を超える世界が“精神科領域”だというように見られてきたことも大きく関係していると思います。

ところが最近になって、「パニック障害」「不安障害」「睡眠障害」、そして「うつ病」などが大きな問題となり、精神科疾患は誰もが罹患しうるコモンディシーズになってきました。こうした、いわば外的環境の変化への対応、そして前述した若手医師を中心とする「精神科領域の教育システム」の構築が大きな課題といえるでしょう。