植田寿乃
キャリアコンサルタント/ダイバーシティコンサルタント

 「ちゃんと1時間から1時間半で休みをいれます。ですから講義の間はパソコンは閉じてしまってくださいね。スマホのメールチェックもダメですよ。テーブルにスマホを出しておくと気になるでしょうから、こちらも鞄に入れて見えないようにね。当たり前ですが電話に出るのもダメです。また休み時間に電話をされる方は時間厳守で戻ってきてくださいね。遅刻すると一緒のテーブルの方に迷惑がかかるし、内容についていけなくなりますから」

 ちょっと不服そうな顔でノートパソコンを閉じ、スマホをしぶしぶ鞄にしまう45歳以上50代の男性たち。これは、某企業の新任役員への研修「経営戦略としてのダイバーシティ・マネジメント」という私の講義のスタート風景です。10名集まった彼らはこの1年で新任役員として、企業の重責を担う立場になった方々ばかりです。ああ、このクラスは昭和度高いな…というのが、私の感想です。

 「私は皆さんにダイバーシティについて理解していただくためにここに立っているのではありません。頭で理解しても行動を変える人は誰もいない。まさに総論賛成・各論反対です。人が意識を変え、行動を起こすのは『腑に落ちた、つまり心が動き、本気になった』時だけです。だから、心を開いて、本音で私の話に付き合ってください。時々、その本音を周りの人と共有して、共鳴していただきます。だから耳で聞くのではなく、心で聴いて感じてください。そして、私の話を聴き終わった時に、ダイバーシティ推進、女性活躍推進に、ご自身がまず何か行動を始めたくなっていただけたらと思っています」

 キョトンとした顔をしながらも、心が緩んで笑顔で私の話に身を乗り出して聴き始めた8人に私はホッとしました。しかしながら、後の2名の態度といったら…。肘掛椅子にそっくり返って座り、腕組みで目をつぶっています。

 「困りましたね。お話をしたいのに心で聴いていない人がいます。心を開くためには腕組みはダメ。音楽でないのですから、目をつぶるのもダメですよ」

 かなりソフトに笑顔で伝えていますが、これでも、自分たちが注意されたことに冷や汗の1人に対して、もう1名は不快な表情で、ますますそっくり返って座っています。ああ、ますますがっかり。こういう昭和意識の50代経営陣の意識を変え、女性活躍推進・ダイバーシティ推進のリーダーとして行動変革の起こしてもらうために、私が許されるのは90分のみです。8人は変化するかもしれない。でもこの最後の2人が変わるには時間が短すぎる…。