河野 龍太
インサイトリンク代表/多摩大学大学院教授

 今回は、ビジョン構想力を高める5つのポイントについて解説します。

<ビジョン構想力を高めるカギ>
1)目的を考え発見する力を養う
2)多様な経験を積む
3)顧客価値の洞察力を養う
4)共感力を養う
5)未来を想像する力を高める

1)目的をつくる力を養う

 イノベーションリーダーは、チームや顧客に明快なビジョンを示す必要があります。イノベーションにつながるビジョンを描くために重要なことは、目的を明確にすることです。目的とは、顧客や社会における事業の根本的な存在意義です。その事業によって人々のどのような問題を解決し、世の中にどのように貢献するか。そうした根本的な問いかけに答え、自分が世の中をどうよくしたいのかについて意思表示をすること。それが目的です。

 商品やサービスを提供する企業の社会に対する考え方や理念、哲学が注目されるようになってきました。背景にはインターネットやソーシャルメディアによって企業の表も裏もあらゆる情報が共有される時代環境があります。

優れた目的がイノベーションを生む

 似たような商品、サービスがあふれる中で、人々は同質的なものに食傷気味です。基本的な品質や特徴に大きな差が見い出しにくい一方で、人々の興味関心は、商品・サービスに留まらず、それらを送り出す企業の価値観、企業理念にまで及ぶようになっているのです。企業によっては、こうしたコミュニケーション環境の変化をむしろ積極的に利用し、自らの考えを明快なメッセージとして発信して顧客や世の中の理解や共感を作り出しています。アップルの故スティーブ・ジョブス氏などはその代表例でしょう。

 目的工学研究所の代表で多摩大学大学院教授の紺野登氏は、イノベーションは「よい目的」から生まれてくると指摘します。

 世界中のあらゆる情報に人々がアクセスできるようにするというグーグルのビジョンには、情報へのアクセスの壁を無くし人々の自由と創造性を高めるという優れた目的が組み込まれています。

 健康、安全、地域コミュニティへの貢献、環境との共生といったビジョンと価値観のもと米国の高級食品スーパー業界に新たなビジネスモデルを創造しめざましい成長をとげてきたホールフーズのCEOジョン・マッキー氏は、事業における目的の大切さを強調しています。その考え方を説明した「コンシャス・キャピタリズム」というフレームワークのピラミッドの最上位には、「目的」がおかれています。「誰もが体によいものを適量に食べ、生活の質を向上させ、長生きできるように支援する」。こうした優れた目的こそが、ホールフーズのイノベーションの源泉なのです。

 優れた目的は、顧客や社会の共感を生むだけでなく、働く人々のモチベーションにも影響します。ダニエル・ピンク氏によれば、現代の人々は金銭的報酬よりも仕事における意味や目的をますます求める傾向にあるといいます。基本的な欲求が充足された成熟社会においては、金銭や地位といった動機だけで人々を奮い立たせることは難しくなっています。逆に目的意識をもった組織やチームは、意欲が高く、高い生産性を発揮することができます。