石田淳
株式会社ウィルPMインターナショナル 代表取締役社長兼最高経営責任者

 大手文具メーカーに勤めるK氏は、商品開発部門のマネジャー職です。ここ数年、オフィス環境のIT化によって、オフィスワーカーの文具消費は頭打ちとなっています。また、子どもや学生向けの文具は、少子化の影響でさらに打撃を被っています。そうしたことから、新しい需要の喚起が全社的な課題になっており、とくに開発部門のK氏たちの責任は重大です。

 K氏は部下たちと「新しいマーケット開発」について定期的ミーティングを持っているものの、これという結論にいたっていません。テーマに対する詰めが甘いからです。

「リサーチのためのリサーチ」をやっていませんか

 先月のミーティングでは、「高齢者マーケット」の可能性について話が及びました。すると部下たちは、それぞれ自分のテーマを設定しました。

「では、私はお年寄りたちの現状について調べてみます」
「僕は、文具が高齢者にどのように使われているかについてリサーチしてみます」

 K氏は、積極的に反応した部下たちの活躍に期待しました。

 2週間後、部下たちはみな、分厚い資料を持って集まりました。しかし、どれもK氏の期待に応える内容ではありませんでした。

 ある部下は、ここ数十年の日本の人口推移を基に、いかに高齢者が増えているかということ、だから高齢者マーケットは可能性があるということを述べました。しかし、それはすでにわかっていることです。

 また、ある部下は高齢者施設にアンケートをかけ、そこでどのような文具が使われているかについて、グラフを使って詳細なレポートをまとめてきました。しかし、それらを使っているのは多くが若い施設職員でしょう。

 K氏を失望させたのは、誰一人、実際にお年寄りに意見を聞いてこなかったことです。たとえば、「指が曲げにくくなっているからハサミが使いにくい」とか「握力が弱いのでスティックノリの蓋が取れない」といった具体的な声は拾われませんでした。

 高齢者に実際に話を聞いてみれば、「そもそもこの年になって文具なんて必要ない」と言われたかもしれなせん。それはそれで、一つの大きな判断材料になります。しかし、部下たちは「リサーチのためのリサーチ」をやっていて、ミーティングはまさに机上の空論に終わってしまいました。