河野 龍太
インサイトリンク代表/多摩大学大学院客員教授

 現代の企業は複雑な問題に直面しています。見えにくい顧客ニーズ、競合からの模倣、グローバルレベルでの競争、テクノロジーの進化、異業種からの新規参入、激しい価格競争…。このような問題を解決するには、これまでとは次元の違う価値を顧客や世の中に生み出す、いわゆるイノベーションが必要になります。

 さて、そのイノベーションを起こす上で昨今注目されるのがイノベーターといわれる人材です。イノベーターという言葉は、創造的なアイデアを発想し、画期的な商品や事業を生み出す突出した才能をもった個人を我々にイメージさせます。しかし、事業環境が複雑な現代においては、イノベーションはチームで起こすものであり、一人の異才に頼るのものではありません。

従来型マネージャーではイノベーションを起こせない

 イノベーションがなかなか起こせないのは、社内にイノベーターが育たないことを課題と考える場合があります。しかし必ずしも、イノベーターという言葉から想起される、突出した才能をもった個の育成に着目する必要はありません。むしろ、組織内外の専門家的人材をチームとして率いてイノベーションを実現するイノベーションリーダーが不足しているという見方をした方が、課題と対策がよりクリアに見えるでしょう。

 組織の中にイノベーティブなアイデアを持った人材や優れた専門性を持ったエキスパートがいくらいても、それらのアイデアや専門性の本質を見抜き、顧客や市場にインパクトを与える価値へと結晶させるリーダーがいなければ、イノベーションは実現しません。たとえば、ゼロックスのパルアルト研究所にはイノベーティブなアイデアが多数ありました。しかし、スティーブ・ジョブズがいなければ世に出なかったかもしれません。ジョブスがそれらの本質的価値を見抜き、アップルの技術陣を率いてパソコンと関連づけて商品化したことではじめてイノベーションが実現されたのです。

 つまり、現代の複雑な事業環境においてイノベーションを起こすには、社内外に開かれたオープンな環境の中でユニークなアイデアを求め、多様な専門的人材とコラボレーションをしながらイノベーションを実現することが求められます。そのためには、新しいタイプのリーダー、イノベーションリーダーが必要ということです。

 そもそも、イノベーターといわれる人材は、すでにシステムが確立された既存の企業に所属することに疑問を感じる傾向があります。イノベーションとは、既存の価値や仕組みに疑問を投げかけ、これらを壊して創造的に組み直すプロセスなので、既存の権威への反抗や挑戦はつきものです。多くの企業はこういったイノベーティブな人材の扱いに対して現状の組織や職場環境、評価管理の仕組み等が十分適応できていません。せっかくイノベーター的人材が育っても、彼らのやりたいことと現実の環境とのギャップが埋まらずに去られてしまうことも少なくありません。

 一方、従来型のマネージャーは既定の戦略や計画を実行し管理することに慣れていても、イノベーションを起こすリーダーとしてなすべきことを十分理解していません。そのためのスキルや経験も不足しています。こうしてイノベーションを実現するためのリーダー人材の不足という問題が、既存企業でのイノベーションを阻むボトルネックになっています。特に、既存の組織の場合は、いわゆる突出した異能の個人であるイノベーターの不足も問題ですが、むしろそれよりも、多様なバックグラウンドと専門性をもつ組織内外の人材から創造的なアイデアや困難な目標を達成する意欲を引き出し、イノベーションへとつなげる新しいタイプのリーダーが育っていないと捉えた方がより問題の本質を理解しやすいでしょう。