リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 そもそも「常識」「非常識」とはなんでしょうか。何を基準に「常識」という枠でくくるのでしょうか。そこには「異文化」が大きく関わっています。

「常識」の落とし穴は氷山にあり

 文化には色々な定義があります。例えばその一つとして、「あるグループに続する人々が暗黙のうちに共有したり習得している考え方、感じ方、価値観などのこと」と言えるでしょう。

 文化はいうならば氷山にたとえられます。つまり、見えている部分はほんの一部で、そのほとんどは水面下に隠れているのです。見えている部分(右図:“WHAT”)というのは、発せられた言葉や行動、ボディーランゲージなどです。しかし、「なぜ(右図:”WHY“)」そのような言動が取られたのか。その背景となる様々な要素が、グループ内の人たちにのみ言わずと知れた価値観や習慣、伝統、などで、これらは水面下に隠れているのです。このようにして暗黙のうちに共有が行われているグループの中では、それらを知っていることは、“常識”なのであり、同じグループに属しているのだから知っていて“常識”であることから外れた言動が取られると、それは“非常識”と受け取られるわけです。

 しかし、この氷山の水面下“WHY”の部分は、文化圏(価値観が共有されている“グループ”)によって大きく異なります。例えば、こんな光景が在米日系企業でよく見かけられます。

 日本人スタッフとアメリカ現地スタッフの合同チームによるミーティングで、日本人スタッフたちは「Yes, Yes」とただただうなずいていました。アメリカ現地スタッフから「質問はあるか?」と尋ねられましたが、日本人スタッフは「No question」だったため、差しさわりのない形でミーティングは終了しました。しかし後日、また同じメンバーでミーティングを行った際、日本人スタッフからアメリカ現地スタッフへ、「本社とも協議の結果、○○の方向性で進めることになりました」との通達がありました。アメリカ現地スタッフは、「つい先日はYesだったし質問もなかったのに、いつの間にどこで何が変わったんだ?」と疑問と不満が溢れ、モチベーションが下がってしまうのです。

 頻繁に見られるこのようなケースでは何が起こているのでしょうか。氷山に当てはめて考えてみると、次のように説明ができます。

 まず、日本人スタッフにもアメリカ現地スタッフにもはっきりと見えていた「WHAT」は、「Yesとうなずき」、「No Question」です。しかし日本人スタッフ側と、アメリカ現地スタッフ側の「WHY」は全く異なりました。

 日本人スタッフ側の「WHY」はこうでした。

「Yes, はい、あなたの意見はそういう意見なのですね(でも本社は恐らくそれには反対で○○の方向性になることはわかっている。でもミーティングでそれを頭ごなしに言って否定しては調和が崩れるし、彼らの面目も立たないだろうから、みんなの前で反論するのは“非常識”だ。ミーティングはディベートする場ではなく、進捗報告や最終合意の確認をする場だ。この場では彼らの意見をただ受け止めるとして、後ほど本社とも調整した上で、最終通達の報告をするのが良いだろう)」

 アメリカ現地スタッフの「WHY」はどうだったでしょうか。

「Yes, no question。つまり我々の意見に賛成してくれていて、質問もないほど明確に意図が伝わったのだろう。だって疑問や反論があれば伝えてくるだろうし、質問してくるのが“常識”。それが全くないというのは、完全に我々の意見が受け入れられ、合意されたということだ。我々も大いに貢献できたのだな。良いことだ!!」