監修:石井 りな
精神科専門医、産業医/フェミナス産業医事務所、(株)プロヘルス代表

「頑張って働いているのに、なぜ注意されなくてはいけないの?」
「働くなと言うのですか?」

 長時間労働者と面談すると、こんな声が聞こえてきます。

 なぜ、長時間働いた労働者に対して、産業医との面談や労働時間の管理が必要になるのか ―― 。今回は、長時間労働が個人と企業に及ぼす健康リスクについて説明します。

 長時間労働者に医師による面談指導を行う根拠は法律にあります。労働安全衛生法では下記のような対象者に対して実施が義務づけられ、実施責任は事業者(企業)にあります。

産業医面談の対象となる労働者

〔義務〕1カ月当たりの時間外・休日労働が100時間を超え、疲労の蓄積が認められるもの

〔努力義務〕月80時間超の長時間労働で疲労が蓄積、または健康に不安を感じているもの

 事業場で定めた基準該当者(時間外・休日労働が月100時間を超える労働者、2~6カ月平均で月80時間を超える労働者はすべて。月45時間超の労働者へも勧奨)

 「法律で決まっているから実施しているのか?」という疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。もちろんそれだけではありません。法律に盛り込まれた背景には医学的な根拠があります。

長時間労働で脳・心臓疾患リスクが倍増

 長い時間働いて帰宅が遅くなると、当然睡眠時間は短くなります。睡眠不足だと疲労は回復せず、さらに疲労が蓄積して翌日の労働生産性が低下します。「遅くまで働いているけど、会議で居眠りばかりしている人」は、きっと皆さんの周囲にもいらっしゃるでしょう。
 
 結果として、翌日の労働時間も長くなるという悪循環を起こし始めます。このような長時間労働は心身の機能に悪影響を及ぼし、以下のような病気を引き起こす危険があります。

(1)体への影響
 長時間労働は、間脳の視床下部から脳下垂体を経て副腎皮質反応を亢進させます。そして、交感神経系の興奮、血圧上昇、耐糖能低下、血小板機能亢進、凝固系亢進といった体のストレス反応を生じさせ、結果として脳・心臓疾患を増加させます。

 これまでの研究で、週60時間以上の労働は心筋梗塞の発症率を2.4倍上昇させ、1日5時間以下の睡眠は脳・心臓疾患の発症を1.8倍~3.2倍に上昇させることがわかっています。つまり、疲労や睡眠不足は心臓や脳の血管に負荷をかけ、突然死のリスクを高めます。突然死は、高齢の人ではなく働き盛り年代にこそ起こるのです。

 長時間労働に喫煙、飲酒が加わると、さらに高リスクとなります。長時間労働のストレスでタバコを吸い、お酒も大好きで、メタボ体型という方はくれぐれも注意が必要です。

 こうした人は、会社にとってリスクの高い従業員となります。長時間労働の管理に、健康診断の結果を併せて考えることが必要です。もともと病気のある人とない人とでは、同じ長時間の労働をさせた場合でもそのリスクは大きく異なるためです。