安田 結子
ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ・ジャパン・インク 日本支社代表

安田:弊社ラッセル・レイノルズ・アソシエイツでは、昨今CEOの後継者育成計画へのサポートが一つの重要なサービスの柱になってきています。この背景として、特にグローバル企業において、CEO後継者育成が非常に大きな課題になってきているからです。米国の証券取引委員会(SEC, Securities and Exchange Commission)からも、後継者育成計画を持つべきというコーポレートガバナンスの指導要項が出され、どの企業も真剣に考えています。ただ、後継者育成計画のプロセスがうまく行っても、選んだCEOがうまく機能しないこともあります。

 日本でCEO後継者育成と言うと、社長・会長の専権事項であり、一般的には人事が積極的に関わることはないとも言われています。最近になってようやく、いくつかの先進的な企業で、後継者育成計画の一環としてのエグゼクティブ・アセスメントや、リーダーの育成プログラムが行われるようになりました。個人的には、客観的なアセスメントを実施することは、将来の経営幹部になりうるリーダー予備軍を選抜育成することに大きな効果があると考えています。

 日本の企業のトップの方は、後継者育成計画を関心の高い課題の一つとして挙げながらも、必ずしもそのことを公に話すことは多くないようです。どちらかというと、弊社のような専門会社というよりも、大学の先生や有識者が企業のトップの相談に乗っているように思います。竹内先生のお話を伺えたらと思います。

トップの育成に関わる3つのこと

竹内:トップの育成は大きな課題となっており、それには3つのことが関係していると考えています。1つが外部要因としてのグローバリゼーションです。私が以前いたオリックスでは外国人投資家が60%を占めていて、「ガバナンスがどうなっているのか」ということをグローバルの視点からよく指摘されました。

 今までのやり方は、講座制という大学の悪い習慣をそのまま取り入れたとものとしか思えません。私が以前いた一橋大学でも、教授が退官するときに次の人を任命し、後継者を誰にするかは最後まで公言しません。そうすると教え子たちは、先生のために色々とエンヤコラとやり、最後に「(後継者は)あなた」となります。これはどう見てもオープンではない。けれでも、退官する先生にとっては、退官するまでパワーと決定権を持っていて、とてもやりやすい。ただ、村社会ならある程度通用しても、グローバルではどう見ても通用しない制度です。

 2つ目は複雑化です。世の中がより複雑になってきており、先が読めません。ドラッカーは「企業は将来を創れる」と言います。そうするとCEOの最大の任務は「どういう将来を創るか」を考えることです。なぜそれぞれの企業が異なるのかというと、違う将来をビジョンとして描いているからです。違う将来をある程度想定しているからこそ、それぞれの企業の方向性が変わるのだと思います。なので、将来がとても大切なのです。

 複雑な世の中で、ステークホルダーは何かというと、私は将来がステークホルダーだと考えます。それくらい将来が大切です。予測はできないけれど、自分たちが創れる。CEOの後継者育成計画は、「このような将来にとってこういう人が必要だ」というマッチングがないと、企業の戦略としてうまく実行できないと思います。「どういう将来をあなたは創りたいのか」ということが重要なんです。また、自分の任期の話ではなく将来の話なので、誰に託すかがとても重要になってきています。そのため、計画性や透明性なくして、社内外が納得するわけがありません。

ハーバード大学経営大学院教授
竹内 弘高(たけうち・ひろたか)

国際基督教大学卒業。カリフォルニア大学バークレー校経営大学院でMBA、Ph.Dを取得。1976年より1983年までハーバード大学経営大学院助教授、1983年より一橋大学商学部助教授、同教授。2000年に開校した一橋大学大学院国際企業戦略研究科の初代研究科長に就任。2010年よりハーバード大学経営大学院教授。野中郁次郎氏と書いた「The Knowledge-Creating Company」は1995年度の全米出版協会のベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー賞(経営分野)を受賞。また、野中氏と書いた「The Wise Leader」が、米誌ハーバード・ビジネス・レビュー 2011年5月号にカバー論文として掲載。