リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 大・中・小 ―― 様々な規模の企業のコンサルティングを行っていると、「中小企業が大企業へと成長していくための秘訣はなんだろう?」と考えさせられることが多くあります。筆者の経験では多くの場合、リーダーシップや互いの信頼関係の構築、コミュニケーションの取り方、といったようなソフト面に、その秘訣があります。制度やルールなどのハード面をいくらそろえたとしても、それをうまく運用していくための人間関係や日常的習慣、チームワークなどがなければ、組織を上手く回して成功に導いていくことができないからです。

 もちろん、必ずしも大手企業になれば良いというわけではありません。中小企業のほうが良い経営をしていることだってあります。ここでは、起業した会社を「大企業といえる規模に大きく成長させる」 ―― これをゴールの一つに掲げている、と仮定してお話します。

社員に任せる

 日本の偉大なる経営者の一人とされている松下幸之助さんも、最初は大阪の自宅で妻、その弟、および友人2人の計5人で、電球ソケットの製造販売を開始したところから始まっています。大変な発明家でもあり、幼い頃から商才を顕していた松下幸之助さんですから、その類稀なる才能ゆえに会社をここまで大きくできたのだろう、とお思いでしょう。もちろんそのとおりだと思います。

 しかし松下政経塾の塾生が、ある日松下幸之助さんに尋ねたところ、意外な返答が返って来たそうです。

「幸之助さんは、どうして会社をここまで大きく出来たのですか?」
「それは私が体がとても弱かったからだよ」

 その塾生は「????」で一杯でした。どういう意味なのか。さらに問いかけると、

「私は体が弱かったから社員に任せなければならなかった。だから社員ががんばってくれた。そのお陰なのだ」

と教えてくれたそうです。もちろん偉大なる松下幸之助さんの下には、優秀な人材が社員としてたくさん集まっていたことでしょう。しかし、それだけでなく、彼らを信頼し、任せる ―― 。これが社員としてはとてもやる気に繋がることだったに違いありません。もちろん、野放しなのではなく、重要なところではトップとしての幸之助さんの明確な指示があり、秀逸した判断力があってのことであったのだろう、というのは想像に難くありません。

 故に、幸之助さんを尊敬する、「任せられる優秀な人材」がおのずと集まってくる…。だから彼らに任せられる…。そんな、ポジティブ・サイクルが働いていくのではないでしょうか。やはり、仕事力云々以前に、偉大なトップの人となり、松下幸之助さんという人間としての魅力、そんなところにすべての基点があったのではないか、と思います。