リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 前回に引き続き、特に海外進出の際に起業家や中小企業が陥りやすい点について、異文化の視点から実際の事例に基づいてお話します。

いいモノに対する価値観は世界共通ではない

「いいモノは必ずそのままで価値が伝わる(だから必ず売れるはず)」

 これは特にエンジニアや職人など、モノづくりのプロや自社商品の生みの親で思い入れが非常に強いベンチャー企業のトップなどに多い思考パターンです。従来、日本はモノづくりに長けており、モノづくりにこめられる並々ならぬ努力と情熱は誇れるものだと思います。更に、彼らに対してその「モノ」の何がどう素晴らしいのかをたずねると、通常、きちんと論理的に説明ができて、納得させられるのです。その「モノ」について一から十まで熟知しているからです。

 しかし。海外進出を考えた時、そこが大きな落とし穴となります。それはなぜかと言うと、まず第一に「いかにそのモノが優れているか」という理由はほとんどの場合、そのモノの「機能的な側面」に主眼を置いたものであるケースが多いからです。第二に、そのモノは現在の市場において(つまり初の海外進出を考えているならば、日本国内という市場において)「優れている」とされているからです。

 まず第一の理由についてご説明しましょう。

 今日の市場でモノが売れていくためには、もはや機能的な側面で優れているだけでは通用しません。「機能的秀逸性」に加え「情緒的密着性」が必要です。では、情緒的密着性とは何か。全く同じ機能性のAとBが二つあったとして、「どちらを選ぶか?」といったときを例に説明しましょう。その際、「Aの方がBよりも好き」「Aの方がそそられる」…、そんな抽象的だがエモーショナルにひきつける何か、が効力を発するのです。この何かがブランド力であり、情緒的密着性なのです。

 同じモノでも、売る市場が異なれば「情緒的密着性」の基準は大きく異なります。日本国内の市場でさえも、生活様式や慣習の違いなどにより、その基準は異なってきます。海外の異文化の市場となればなおさらです。その結果、当然、「モノが提供する価値の定義」「モノを使用する場面・目的・用途」「売り方」などは、日本市場のそれとは大きく変わってきます。そしてさらに異文化市場でもモノが売れていくためには、「機能的秀逸性」×「情緒的密着性」の両方を備えているだけでなく、その市場特有の価値観を反映した優れたマーケティングのプランニングが必要となってきます。