リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 前回はベンチャーが失敗する主な原因と、失敗した時の心構えについてお話しました。今回は、特に海外進出の際に起業家や中小企業が陥りやすい点について、実際の事例に基づいてお話しましょう。

「思いつきやひらめきはすぐに事業化を!」の落とし穴

 強い情熱と信念を持って起業した経営者は、カリスマ性が高く、統率力の強い、いわばワンマンである場合が多いものです。そんなトップは、社員を一同にまとめあげてゴールに向かって突進し、同時に革新的な、新しい市場やモノを創造していく力も持ち合わせています。多くの中小・ベンチャーのトップは、多才なアイデアマンでもあり、日々の生活の中のひらめきから次々と沸き起こってくるようで、その才能には感嘆させられます。そんなひらめきや、ふとした思い付きは、新規事業にとって非常に重要です。しかも、中小・ベンチャー企業の良いところは、規模が比較的小さく小回りが効くところ。

 しかし、ここで気をつけなければいけないことがあります。その思い付きやひらめきを、仮説検証もせずに、思いつくがままにすぐに事業化してしまうと失敗につながる可能性が高い、ということです。過去にアメリカに進出した中小企業で、こんな例がありました。

 その企業のトップは、まさに前述のようなタイプの勢いのいい人でした。初めての海外進出にもかかわらず、言葉の壁などものともせず、臆することなく現地の人と関わり、次々とビジネスの協力者を募っていきます。このトップの親しみやすい人柄が功を奏し、協力してくれる仲間の輪はどんどんと広がっていきました。現地で多くの人々に会うと、それだけ多様な現地ならではのノウハウにも出会っていきます。このトップは出会う人、出会うノウハウ、すべてが新しく、「それは良いアイデアだ!」「明日からそれを実行しよう!」と次々と実行に移していきました。

 しかし、進出後半年くらい経つと、事業に関わる外部人材は膨大な数となり、当然、コストが膨れ上がっていきます。そして、日々、次々と新しいことに着手するため、現地社員たちはついていくことができず、トップが一人鼻息荒く動き回っているのを傍観するのみ。徐々にトップと現地社員との間に大きな溝ができていきました。不満が募り、モチベーションが下がる一方の現地社員。それを横目に、一層鼻息を荒くする本社トップは、現地でのコスト急増を埋め合わせるために毎月の本社からの仕送りなど次々に対応措置を施します。それでも、管理しきれない外部協力者の数々、そして外部協力者同士の対立など、トップの努力は空回りするばかり…。この企業は結局、1年強で市場撤退することを余儀なくされました。