吉野明日香
株式会社エイチ・アール・ディー研究所 開発部 マネジャー

いよいよ4月。とうとう今年の新人が入社してくる。1年前、私はどんな気持ちで鶴亀が掲げられた玄関をくぐったっけ…。あっという間の1年だったなどという感傷よりも、今日から始まる仕事に気を取られていて、それどころではない。何かあってはいけないと気持ちばかりが焦り、始業時間の2時間も前に会社に到着してしまった。さすがに部署のメンバーは誰も来ていなかった。

いよいよ新人研修が始まる

 午前中は総務部主導の入社式があり、午後から私がコーディネートした新人研修が始まる。新人研修といっても、今日はまだ社内規定やコンプライアンスといった伝達すべきことが中心だ。私は冒頭で新人研修の目的やスケジュールを説明し、登壇者が変わるごとにその紹介といった司会進行を行うことになっている。それは、今までも仕事としてやってきたことなので、それほど心配していない。

 問題は明日。明日は、社長秘書の大森さんによるビジネスマナーの特訓に引き続き、私がインストラクターとして初めて受け持つことになるeメール講座がある。このほかに「報・連・相」というテーマの研修も受け持つことになっている。どちらも先輩の永塚さんには、ずいぶん時間をかけて厳しく指導してもらった。おかげで準備は万端と言いたいところだが…、テストのように暗記すればよいというものでもない。私は、今日の部分の流れを確認してから、明日のeメール講座について頭の中でシミュレーションを始めた。

 早めの昼食を取り、永塚さんと研修室に向かった。午後から新人研修スタートである。新人さんたち総勢28名は、昼休みが終わる少し前にみんな席に戻っていた。机は5~6人の島に配置されている。そこに並んでいる真新しすぎるスーツ姿は、いかにも新入社員という感じだ。まだグループの人とおしゃべりするというほど仲が良いわけでもなく、なんとなく緊張した空気に満ちていた。

 永塚さんは研修室の後ろの事務局用の席に座った。次のコマを担当する総務の細田さんも来ており、小声で挨拶を交わす。私は一人、皆の前に進み出た。ああ、緊張する。

「皆さん、入社おめでとうございます! 人材開発の元谷と申します。この約1カ月の新人研修で、メイン担当を務めさせていただきます。メイン担当といっても、私一人で皆さんに何か教えるというのではありません。研修の間には色々な方がインストラクターとして登壇されますので、そういったコーディネートやサポートもやっています。今日で入社2年目になりました。皆さんと年もほとんど変わらないので、分からないことなどがあったら気軽に質問してください。よろしくお願いします」