吉野明日香
株式会社エイチ・アール・ディー研究所 開発部 マネジャー

 日々、新人研修の準備で社内調整に忙しい。だが、永塚さんのサポートもあって、なんとか目鼻がついて形になってきていた。

 目下、私の一番の心配事は、永塚さんにお願いしようと思っていた新人研修のインストラクターを、部分的に担当することになってしまったことだ。担当するのは「報・連・相」と「eメール」という2つで、それぞれ3時間ずつ教えることになっている。インストラクターの準備は何から手を付けたらいいのか分からない。期末も重なり、私は初めての事務処理にも追われている。このままでは、あっというまに4月になって、新入社員が入社してしまう! 

 人材開発部の仕事として、研修の冒頭に大勢の受講者に向かって話しをすることは何度もやっている。内容は、研修の目的や研修中の注意事項についてといった伝達事項だ。30名くらいの初対面の人前で話すのはとても緊張するが、話す内容をメモで用意して、1年目の社員という勢いと、失敗してもいいじゃないかという開き直りで、乗り切ってきた。

 しかし、今度の新人研修はちょっと違う。もちろん、そういった場面で話すこともあるが、研修そのものをインストラクターとして受け持たねばならないのだ。“同じ”というわけにはいかないだろう。「何がどう違うのか」うまく言えないけれど、もし私が受講者だったらそんな講師は嫌だな。

 担当分野の報・連・相とeメールについては、永塚さんに日々の仕事ぶりを評価した上で任せてもらった。とても嬉しいことだが、実際のところ、どうしたらよいか考えながらやっている部分も多い。どちらも、これといった正解がない分野で、新人に何を教えたらいいのだろう。去年、永塚さんに教わった時のテキストを見たり、市販のビジネスマナーの本を見ながら、私は新人に伝えたいことのメモを作り始めた。

永塚さんにリハーサルを見てもらうことに

「元谷さん、新人研修の準備はどんな状況?」

 打ち合わせを終えて席に戻ってきたタイミングで、永塚さんから声をかけられた。

 まずい! 報・連・相のことばかり考えていたのに、このところお互いに席にいることが少なくて、自分の報告をするのを忘れていた。

「ご登壇いただく方の調整と、お願いはほとんど終わっています。あとは私がやる研修の準備に取り掛かっているんですが…。ちょっと難航しています」
「難航している? そういうのはもっと早く言ってほしい。…一度、全部じゃなくていいから僕の前でリハーサルを見せてもらおうか」
「リハーサルかぁ。…そうですね、そうしてもらえると嬉しいです。まずは報・連・相の方から準備をしているので、そっちから見てもらってもいいですか」
「わかった」

 永塚さんにリハーサルを見てもらう日時を決め、会議室を1時間予約した。私がリハーサルをやる時間は30分、それからフィードバックの時間を30分、という時間配分も決まった。