吉野明日香
株式会社エイチ・アール・ディー研究所 開発部 マネジャー

 4月から新人研修のメイン担当をすることになった私。昨年の担当だった永塚さんから、たくさんの記録を取ったファイルを渡され引継ぎは受けたものの、「やるべきこと」にうっすら目鼻が見えるかなというくらいの状態である。でも研修がスタートするまであと3カ月を切っており、ともかく準備をしなくては仕方がない。研修会場となる会議室はキープし、工場実習の日程も確定した。

 新人研修の目的・目標は決まっていたので、社内の色々な方々に講師をお願いすることが最初の仕事だ。皆さん、私よりも先輩というだけでなく、偉い方もいらっしゃる。それを新人研修というプロジェクトの中で、私が「マネジメント」していかねばならない。ところが、社内の人を巻き込むというのは、想像以上に気を使う大仕事だったのだ。

人に何かをお願いするときの注意点を忘れていた

 研修の受講者となる新入社員の情報を収集するために、人事の採用担当者に話を聞きにいくことにした。採用担当者は、神尾さんという女性である。私も採用から内定期間には、彼女のお世話になっていた。アポをお願いするために電話をかけた。

「はい、神尾です」
「人材開発の元谷です。お疲れ様です。あの、ちょっと来年度の新人さんについてお願いがありまして、お電話したのですが…」
「…来年度の新人って、今の内定者さん? ちょっと今、次の採用準備で忙しいんですけど! また今度にして」
「あっ、はい、すみません」

 よっぽどお取り込み中だったのか、あっという間に電話を切られてしまった。まるでセールスの電話を断るような勢い。神尾さんって、内定期間中のやり取りでは、頼れる落ち着いた大人の女性っていう印象だったんだけどなぁ。なんか、冷たい…。このままじゃ、時間を割いて新人さんの情報をもらうのは難しいかもしれない。腕組みをして考えていたら、向かいの永塚さんと目が合った。

 …あっ、そうだ!!

 永塚さんと目が合って、大事なことを思い出した。「人を動かすための方法」として、度々言われているポイントを。それは、人に何かをお願いするときは、「どう言ったら喜んで引き受けてもらえるか」を考えておき、伝えるということである。そのためには、ただお願いする事項を伝えるだけではダメだ。まずは配慮や共感を示し、相手への役割・期待を伝え、その人が引き受けてくれることのメリットや、引き受けていただけなかったときのリスク、お願い事項を伝える。さっきの私は自分の用件だけお願いしようとしていて、神尾さんのメリットなんか全然考えていなかった。それじゃあ、ちょっと都合が良すぎるよね。