細川馨
ビジネスコーチ(株) 代表取締役

細川:フィロソフィーというテーマでいろいろな企業にお話を聞いていますが、創業当初からそれを徹底するというのはむずかしいのではないかと感じています。御社は「Honda Philosophy」という考え方がしっかりあり、それを実践しているように思います。その伝承はどのように行っているのでしょうか。

澤田:創業メンバーに直接指導して頂いた人が、非常に少なくなりました。現社長も直接指導をされていないくらいの状況ですが、普通に考えると、直接指導を頂くことで創業時の気持ちも思いも伝わり、フィロソフィーの伝承はうまくいくと思います。弊社では直接指導された方が少なくなったということに危機感を覚え、2008年にどう伝承するかを考えて、経営メンバーやマネジメントからの伝承はもちろんですが、今まで以上に研修の中にフィロソフィーを組み込んで浸透させていくと決めて、活動し始めたのです。これまでも、新入社員や入社3~5年ほどの若年層には、研修を受け持つ先輩社員をアドバイザーと呼んで、フィロソフィーの伝承を行っていましたが、2008年以降は、それよりも年齢や資格の高い層、自身が研修を受け持つアドバイザー層にもフィロソフィーの伝承を意識して、組み込んでいます。

フィロソフィーは体に染みついているもの

細川:澤田さんからご覧になって、フィロソフィーの浸透度合いはいかがですか。

澤田:浸透はしていると思います。白い作業着のポケットに入る「Honda Philosophy」という小さな冊子があり、ここにすべての基本理念などが書かれています。「共通の価値観」と呼んでもいいかもしれません。たとえば人事部門であれば、制度を作ろうとしたときに、その制度の中身がここに書かれていることと照らし合わせてどうなのかをチェックします。書かれていることは、難しいことではありません。「人間尊重」と「三つの喜び」を基本理念としています。

 「人間尊重」には、「自立、平等、信頼」があります。自立とは、しっかりと自分で自由に発想し主体性をもって行動しよう、行動に対しては責任を持とう、という視点です。また、平等も大切にしています。ブルーカラー、ホワイトカラーという言い方が世間ではよく言われますが、弊社にはそれはありません。ラインに従事している人が他の管理部門に異動することもありますし、学歴も基本的に関係ありません。創業者の本田宗一郎は、自分の家が貧しい時代、隣の家に五月人形が飾られるのを見に行くと「なんでおまえが来るんだ」と言われたという経験があり、人はきちんと平等に見なくてはいけないと言う考えを常に持っていたようです。信頼とは、マネジメント側と従業員や従業員同士だけでなく、労働組合などとも話合いを基調として、お互い尊重し合って信頼してやっていこうと言う考え方です。

 「三つの喜び」は、「買う喜び、売る喜び、創る喜び」です。創業の頃は、創って喜び、売って喜び、買っていただいて喜ぶ、の順番でしたが、お客様の買って頂く喜びが先にあるべきとの考え方から順番が変わりました。一人ひとりが自立して、平等に、信頼して仕事に取り組んでいるか。それらの考え方も階層別研修の中に取り入れています。

細川:ミッションやビジョン、バリューを大切にしていらっしゃるのですね。

澤田:正式にミッションやビジョン、バリューという言葉で整理してはいませんが、その考えはフィロソフィーの中に大切にされていると思います。夢を実現するという創業者の思いが社是にとなり、「わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす」と掲げています。「基本理念」は、会社の使命感、存在価値や最も大切なもので、ミッションにあたるかもしれません。ただし、これは上から言われたからとかではなく、あとで振り返ってみると「自分の行動がそうだったんだ」という感じですね。我々からすると、入社以来慣れ親しんでいて、肌に染みついているものなのです。

本田技研工業
澤田 武美(さわだ・たけみ)
人事部人材開発センター 所長 参与
1959年生まれ。1978年に本田技研工業株式会社に入社し、浜松製作所の汎用工場に配属。1992年に浜松製作所の管理事務室 総務課へ異動。1999年に株式会社本田技術研究所朝霞研究所総務係長、2002年に本田技研工業株式会社品質改革センター総務課長、2003年に株式会社社本田技術研究所和光研究所の人材開発室マネージャーに就任。2011年4月より本田技研工業株式会社人事部人材開発センター所長として全社人材育成を担当。