吉野明日香
株式会社エイチ・アール・ディー研究所 開発部 マネジャー

 私は、この間から秘密のプロジェクトに関わっている。秘密といっても、部内では暗黙の事項みたいになっていて、あんまり秘密っぽくないんだけれど…。秘密のプロジェクトという響きがカッコイイじゃないの。

 何が秘密なのかというと、今度わが社に新部門が設立されることになったのだ。今まで鶴亀魔法瓶では、家電量販店や小売店を通した販売網を構築していた。そこに新しい販売方法として、インターネットを使った直接販売に乗り出すことになり、そのための部門を新設することになったのである。

 なんで人材開発部の私が、新部門に関するプロジェクトに関わっているのかというと、もちろん人材開発のためである。新部門での仕事は、今まで社内に存在していなかった仕事ばかりだから、新たな知識やスキルが必要となる。そこで人材開発部の出番がやってくるというわけ。なんて偉そうに言ってみたけど、倉持部長からそういう人材開発戦略なんていう視点を教わりながら、なんとかやっているという状態だ。

人材像を考える第一歩が始まった

 今日は新部門の部長に内定している青木部長から、3時間にわたる会議の招集を受けていた。出席者は、営業企画の寺崎さん、わが部の倉持部長と永塚さん、そして私である。本当はわが部の岩松課長にも声がかかっていたのだけれど、仕事の都合で出られないということだった。

 実はこの会議、まだ議題を聞かされていない。召集を受けたときに、永塚さんに「何の会議でしょうね?」と聞いたら、「行けばわかるだろ」と言われてしまった。いつもの会議は議題や検討事項が事前にメールで来ることがほとんどだから、それが普通だと思っていたけれど…。そうでもないのだろうか。

 会議室にメンバーがそろったのを見て、青木部長が立ち上がった。

「例の新部門の話をするために、今日は集まってもらった。まず12月から準備室を立ち上げ、新部門の土台を作っていくことになっている。本稼動は来年の4月となるが、まだ誰が配属されるかは決まっていない。そこで人材開発の倉持部長から、理想の人材像をあらかじめ描いておいてはどうかと提案をいただいた。そういうものがあれば、すぐに新しい業務に適応できる人材を配属してもらえるよう、人事との交渉もしやすくなるだろう。また、配属の内定が出た時点で、不足している知識やスキルに優先順位をつけて勉強してもらうこともできる。そのための申請すべき予算も、あらかじめ計算しておける。というわけで、今日は新部門における人材像を考える第一歩としたい」

 青木部長が話し終わり、隣に座っていた倉持部長の顔を見た。倉持部長は資料を配った。パラパラとめくってみると、私がこの前作ったインタビューのまとめも入っていた。

「今のお話の通り、今日は新部門の人材像を考える第一歩です。新部門の業務は多岐にわたることになりますから、今日だけでは人材像のすべて洗い出すことはできません。今日は一部について、私がファシリテーションを行って、どうやって人材像を洗い出したらいいかを体験してもらいます。後は青木部長を中心に、新部門の関係者やニューリーダー研修のメンバーで、詰めていってもらうことになるでしょう」