松丘啓司
エム・アイ・アソシエイツ(株) 代表取締役社長

 コミュニケーションは話し手が発信した意味を、聞き手が理解することによって成立します。もし、聞き手が上の空で、相手の言葉を何も聞いていなかったとしたら…。コミュニケーションはそこで立ち消えてしまいます。つまり、コミュニケーションが成立するかどうかを決めるのは聞き手なのです。そのため、聞き手が何をどう理解するかによって、その後のコミュニケーションは大きく変わってきます。たとえば、次のような上司と部下の面談の場面を見てみましょう。

上司:「うちの職場で最近、気になることはあるか?」
部下:「残業が多くて、メンバーの会話も減ってきているのが気がかりです」
上司:「確かに残業は多いな。仕事の量は減らせないから、生産性をもっと上げないといけないな。他にあるか?」
部下:「いえ、それくらいです」
上司:「では、今度の会議で生産性向上のアイデアについて話し合うことにしよう」

 この会話のどこがいけないのでしょうか?

 聞き手である上司は、部下の発信している意味を十分に理解していません。「残業が多い⇒メンバーの会話が減っている」という表面的な情報だけを捉えて、部下の言葉の意味を理解したつもりになっています。そして、その因果関係から「残業を減らすこと」が命題だと考え、「残業を減らす=仕事の量を減らす×生産性を上げる」という因数分解を行っています。残業を減らすこと自体は必要なことかもしれません。しかし、このようなコミュニケーションを続けている限り、根本的な変化は起こらないでしょう。

問題解決シンドロームに陥っていないか?

 「上司は問題の解決策を持っていなければならない」と上司自身が強く思っていたとしたなら、部下の言葉から、問題の原因を探ろうとしてしまいます。その結果、メンバーの会話が減ってきていること(結果)よりも、残業が多いこと(原因)の方に意識が偏ってしまいます。そして、残業を減らすための「答え探し」に向かいます。これは、いわば「問題解決シンドローム」とでも言える症状です。マネジャー層に、そのような症状が多々見られる組織は少なくありません。

 この部下にとっては、残業が多いことよりも、メンバーの会話が減少していることの方がはるかに重要な問題でした。なぜなら、この人は、チームで協力し合って仕事をすることを大切にする価値観を持っていたからです。メンバーの会話が減って、それぞれが孤立して仕事をするようになってしまうことで、チームの良さが薄れていってしまうことを不安に感じていたのです。