大西 秀樹
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授

 新井芳則(仮名)さん、32歳、入社10年目。もともと真面目な性格で几帳面なところもあり、仕事ぶりがとてもよく、周囲からの評判もとても良い人です。また、社交的でもあり、部署の宴会にも必ず参加し、時には自ら宴会を企画することもあります。29歳のときに結婚。子供はまだいません。入社後は営業一筋に頑張り、新規顧客の獲得などに励んだ成果が認められ、この4月、係長に昇進しました。

 係長になった当初は張り切って仕事に励んでいたようで、深夜の残業も連日こなしていました。しかし、8月頃から仕事中にぼんやりしている様子が目立つようになり、直属の上司から仕事のミスを指摘されることが多くなりました。部下も「係長は仕事ができないね」と陰口をたたいています。9月になると顔色も少しずつ悪くなり、表情も冴えず、明らかに痩せてきているようでした。

うつ病の症状に8つも該当

 新井さんの体調を心配した上司の指示で内科を受診しましたが、血液検査ではなにも異常がみつかりません。この様子をみていた先輩の竹村さんは、新井さんに「最近、元気がないようだけどどうしたの」と話しかけてみました。すると新井さんは疲れ切った表情で話し始めました。

「4月に昇進した時はとても嬉しかったのですが、上司から営業成績をもっとあげるようにという圧力が猛烈にかかってきました。このころからあまりよくねむれなくて…。仕事が増えたので部下に回そうとしたら、『もうこれ以上はできない』との猛反発にあい、それ以後は部下との関係が今一つで…。8月頃からなんとなく落ち込んでしまって…、何をしたらよいのかわからなくなってきました。仕事の意欲もなくなるし…。でも、これではだめだと思って、仕事の遅れを取り戻すために深夜まで残業したのですが、頭が回らないので能率が悪くて…。最近は食事ものどを通りません。私はもう限界です。私のせいで上司や部下に迷惑をかけているので、もう会社を辞めたほうがいいんじゃないかと思っています。妻に相談したら『そんなことは言わずにもっと頑張って』と言われたのですが、もう限界なんです」