大西 秀樹
埼玉医科大学精神腫瘍科教授

 うつ病は現代社会で増加傾向にあり、この病気で休職する社員も増えている。うつ病の早期発見、治療、および社会復帰システムの構築からなるうつ病対策は、社員が安心して働ける健全な職場、本来の意味で生きがいのある職場を構築するために欠かすことはできない。

 前回と、前々回のコラムではうつ病の中心となる症状「抑うつ気分」と「意欲低下」について解説した。

 しかし、それだけでうつ病を説明することはできない。うつ病という病気は他にも様々な症状を呈するためだ。その症状は精神症状ばかりではない。身体症状もある。心の病気であるうつ病に身体症状が出るなどというと違和感を抱くかもしれないが、身体症状はうつ病を知る上で欠かせない症状の一つである。

 今回は、うつ病の身体症状を中心に解説したい。

うつ病にみられる「身体症状」

 心の病であるうつ病の「身体症状」。読者の方々には、違和感があるかもしれない。表1はうつ病を診断するための基準であるが、9つの基準のうち、5つは身体症状である。これからもわかるように、うつ病で身体症状が出ることは多い。

 不眠はほぼ必発の症状で、眠りにつけない(入眠困難)、数時間で目が覚めてしまう(中途覚醒)、早朝に目が覚める(早朝覚醒)など、様々な形で現れるが、不眠症との診断で睡眠薬の処方のみで終わってしまうことも多い。

 食欲低下、体重減少は消化器に何らかの異常があると思わせる症状であるし、全身倦怠感も何らかの「身体の病気」にかかったと思わせるような症状である。制止(頭の回転が鈍くなったと感じる。)、集中困難、決断困難などは仕事上の疲れなどとみなされてしまうことも多いのではないだろうか。

 診断基準に含まれていないが、めまい、ふらつきなどの耳鼻科的な症状、痛みなども生じることがある。いずれも「うつ病」に関連して生じる症状である。しかし、一つ一つの症状はどう考えても、うつ病に結びつくと考えにくい。したがって、患者さんが受診する診療科は精神科以外であることが多い。