大西 秀樹
埼玉医科大学精神腫瘍科教授

 現代社会でうつ病は増加傾向にあり、この病気が原因で休職する社員が増えている。大切な社員がうつ病にかかっていることを早期に発見、治療し、復帰に持ち込む形のうつ病対策は、社員が安心して働ける健全な職場、本来の意味で生きがいのある職場を構築するために欠かすことはできない。

 前回のコラムでは「抑うつ」──気分が滅入ること-について解説した。抑うつはうつ病を理解する上で大切な症状である。ただ、すべてのうつ病患者さんで気分が滅入るわけではない。もうひとつ大事な症状がある。

 「意欲低下」である。

 今回は、“抑うつと”並ぶ大切な症状である“意欲低下”について学んでみたい。

「意欲低下」とは?

 意欲-進んで何かをやろうとする心の動き-がうつ病では低下する。そして、その低下は家庭・社会生活の全般に及ぶ。家庭生活の場面では、家事をしなくなり、好きな趣味をやらなくなったりする。そして社会生活の面では仕事への意欲が低下する。

 意欲と同時に興味・関心の低下も生じる。たとえば、春には花を美しいと感じるのが一般的だが、うつ病になるとそれも感じられなくなる。うつ病患者さんに聞いてみると、桜の花は「灰色」に見えたという。世の中全てがセピア色に見えていた患者さんもいた。

 ペットの犬を飼っている人では、犬が尻尾を振って寄り添ってくるのをうっとうしいと感じ、お孫さんのいる人では、お孫さんが騒いだり、近づいてくるのをうっとうしいと感じるようになる。

会社での様子は?

 意欲が低下すると、仕事に対する関心が薄れてくるので、作業能率が低下し、仕事は遅くなり、期限が守れないなどの支障が生じる。仮に、こなせたとしてもかなりの時間がかかるようになる。集中も出来ないので、ミスが多発する。当然の結果として、成績は低下する。

 周囲に対する関心も薄れてくるので、一見ぼんやりしているように見えることも多い。また、出社意欲も低下するので、遅刻・欠勤なども増えてくるだろう。仕事が遅く、ぼんやりしているようにみえるので、“サボっている”と間違えてしまうこともあるので注意したい。