細川馨
ビジネスコーチ(株) 代表取締役

 前回は、多くのリーダーが抱える「ゴールを目指す意味、ゴールの先を共有できていない」ことを例に、エグゼクティブ・コーチングと目標達成についてお話ししました。今回も、実例を挙げてその改善方法を解説しながら、エグゼクティブ・コーチングの役割についてお話ししていきたいと思います。

◆事件簿ファイル6――「組織の目標」を翻訳できないF氏

 ある外資系部品メーカーの日本法人社長を務めるF氏は、本社からの指示や数値目標を絶対的なものとしてとらえ、それを達成することがほかの何よりも大切だと考えています。今期は本社から300億円の売り上げ、30億円の経常利益を達成するように指示がきました。F氏は社員を集めた会議で次のように言いました。

 「今期は、売上目標300億円、経常利益30億円を達成するよう、本社から指示がきています。達成できるように頑張ってください」

 社員たちは黙って聞いていました。F氏はしっかり目標を伝えることができた、あとは部下たちの頑張りを見守ろうと思いました。

 会議の後に、部下のQ君がF氏のところにやってきて尋ねました。「社長、今期の売上目標300億円は、あまりにも高いと思います。達成できるのでしょうか?」

 F氏は答えます。

 「達成できるかどうかは君たちの頑張り次第ではないですか。何もしないうちから音を上げているようでは、達成できるはずがありません。われわれは最善を尽くすだけです」

 Q君は、腑に落ちないまま、戻っていきました。

 日本法人社長F氏はQ君に対して、大きなミスをしました。なんだかおわかりになるでしょうか?

○「現場の目標」と「組織の目標」がつながらない

 F氏は「トップが決めた目標は、絶対的なもので、どのようなものであっても達成しなければならない。そのために努力するのが海外法人としての役割である」と考えています。しかし、社員からしてみれば、目標だけ伝えられても、その根拠が示されていないために、納得することができません。特にQ君のように、あまりにも目標が高すぎると感じて率直に質問をぶつけたにもかかわらず、それに対して何の回答もないまま、ただ頑張れとだけ言われたならばなおさらです。