細川馨
ビジネスコーチ(株) 代表取締役

 前回は、多くのリーダーが抱える「誰に対しても仕事を任せる、一人ひとりに合ったマネジメントができていない」ことを例に、エグゼクティブ・コーチングのエッセンスについてお話ししました。今回も実例を挙げてその改善方法を解説しながら、エグゼクティブ・コーチングと目標達成についてお話ししていきたいと思います。

◆事件簿ファイル5――目先のゴールだけにこだわるE氏

 ある保険会社の支店長E氏は、仕事において何よりも大切なのは、目先のゴールを達成することだと考えています。そして、どのような目標であれ、それを達成するために最大限努力することが最優先であると信じています。

 新年度が始まり、E氏が支店長を務める支店で会議が開かれました。本社からは売り上げ10億円、経常利益1億円という年間目標が与えられています。

 E氏は言います。

 「今年度、わが支店には売り上げ10億円、経常利益1億円という目標を達成するようにとの指示が本社からきています。この目標は、昨年よりも売り上げで1 億円、経常利益で2000万円多い数字になりますが、それだけ期待されているということです。ぜひとも、この期待に応えるべく、がんばってください」

 部下たちは黙って聞いていました。E氏は伝えるべきことは伝えた、あとは部下たちのがんばりを見守ろうと思いました。

 会議の後に、部下のMさんがE氏のところにやってきて尋ねました。

 「支店長、売り上げを1億円、経常利益を2000万円伸ばすという本社からの指示ですが、どんな根拠で言っているのでしょうか?」

 E氏は答えます。

 「前年度よりも10%伸ばしてほしいというのが本社の意向であり、われわれはそれに向けて努力するのみ。がんばってほしい」

 Mさんは納得いかないまま、渋々と席に戻っていきました。一方で、E氏は目標に対するMさんの意欲を高めることができたと満足していました。

 支店長E氏はMさんに対して、大きなミスをしました。なんだかお分かりになるでしょうか?

○ゴールを目指す意味やゴールの先を共有できていない

 E氏は「部下は上司の指示に従い、ただ、ゴールを達成するためにひたむきに行動すればよい」と考えています。一方のMさんは、伝えられた年間目標の背景(たとえば、なぜ昨年より高い売り上げや利益を目指さなければならないのかなど)を知りたいと思っています。しかし、それが叶わなかったため、Mさんはモヤモヤした気持ちを抱えたまま行動しなければならないという結果になってしまいました。

 私がエグゼクティブ・コーチングをする中で、このような問題を抱えている人によく遭遇します。部下に今期の目標を伝えるだけで、その売り上げや利益を目指す根拠を、エグゼクティブ自身も答えられないのです。

 このような事態に陥る原因としては、リーダー自身がなぜその目標を達成しなければならないのかを理解していない、または自分自身がその目標の根拠や背景に納得していないことが考えられます。