細川馨
ビジネスコーチ(株) 代表取締役

 前回は、多くのリーダーが抱える「情報共有ができていない」ことを例に、エグゼクティブ・コーチングの効用についてお話ししました。今回も、実例を挙げて、その改善方法を解説しながら、エグゼクティブ・コーチングのエッセンスについてお話ししていきたいと思います。

◆事件簿ファイル4――誰にでも仕事を任せる商品開発部長D氏

 ある電器メーカーの商品開発部長D氏は、部下に細かく指示を出すよりも、部下を信頼し、仕事を任せることが大切だと考えています。これは、D氏自身がこれまで働いてきた中で、上司に細かく口を出されるよりも、ある程度仕事を任せてもらったほうが、モチベーションが上がり、うまくいくと感じてきたからです。

 新年度に入り、経営会議で、「本年は他社に負けない、自社のオリジナリティーを生かした製品を開発することを目標にする」という指示が出されました。

 商品開発部のメンバーが一堂に会する、その年初めての会議で、D氏は部員に言います。

 「M社は○○機能付きの空気清浄機を開発している。それに負けない商品をぜひ開発してほしい」

 その会議の後に、部下のV君がD氏のところにやってきて質問をしました。

 「部長、M社は○○の技術に優れていて、その強みを生かしてあの商品を開発しました。我々の強みは何でしょうか?」

 D氏は応えます。

 「それを考えるのが君の仕事だろう? 私よりも君のほうがよく知っていると思うよ。じっくり考えて、何が強みなのか、何を生かせるか考えてごらん」

 V君はなんとなく納得がいかない表情を浮かべたまま、渋々と席に戻っていきました。一方で、D氏は部下を信頼して仕事を任せることができたと思い、満足げな顔をしています。

 商品開発部長D氏はV君に対して、大きなミスをしました。なんだかおわかりになるでしょうか?

○誰に対しても仕事を任せる、一人ひとりに合ったマネジメントができていない

 D氏は細かく指示を出すよりも、仕事を部下に任せることが大事であり、細かなことは言わないで十分だと考えて満足していましたが、V君の質問には何も答えていません。D氏自身は、細かいことを言われてやる気が失せてしまったという自分の経験から、どんな部下に対しても「仕事を任せる」というスタンスで臨んでいました。

 しかし、それはD氏がそういうタイプであったということに過ぎないのです。人によっては、単に任せられるよりは、ある程度指示をしてもらったほうが動きやすいという人もいます。V君はまさにそのタイプで、商品開発について考えるうえで自分の会社の強みは何なのか、ある程度の方向性を知りたかった(もしくは知る機会がほしかった)のです。

 あまり細かく指示を出し過ぎてもいけませんですが、ある程度方向性を示してくれたほうが行動しやすいという人も多いものなのです。その点をD氏は理解していませんでした。