松丘啓司
エム・アイ・アソシエイツ(株) 代表取締役社長

 この連載は今回が最終回です。

 最後に当たって、これまで6回の連載を通じて述べてきたことを、リーダーのための簡潔な方法論としてとりまとめたいと思います。

 この方法論の目的は、大きな変化を引き起こすことです。その変化とは、組織の進歩と需要の創造を生み出す変化です。それを「創造的変化」と呼ぶことにします。今日、創造的変化を引き起こすことによってのみ、企業は成長を続けることが可能になります。

ブレークスルーの限界

 変化を生み出すのは「人」です。しかし、人が一人で生み出せる変化は非常に限られたものでしかありません。人は思考によって、変化を考えだします。思考の源泉となるのは「記憶」ですが、人の記憶は過去の情報の蓄積であるため、もし何もしなければそれ以上、増えることはありません。たとえば、新しい単語を一つ記憶に追加するにしても、人は一人ではできません。辞書を見ればできるかもしれませんが、その辞書も誰か他人が作ったものなので、一人でできたことにはなりません。

 企業は(あるいは「人類は」と言ってもよいかもしれませんが)、異なる人の記憶とその表出の「違い」が重なり合い、「調和」することによって発展してきました。創造的変化とは、そもそも複数の異なる人の知識や意見や感性が出会うことによって、はじめて出現するものなのです。そのことは、過去も将来も変わりがありません。しかし問題は、かつてのような同質的な組織における違いの調和では、そこから生み出される変化の範囲に限界があるということです。

 組織における「ナレッジ」(知識やスキルやノウハウを総称しています)は、組織に属するメンバーの記憶の集合体です。それは個々人の経験だけではなく、諸先輩が蓄積した膨大な記憶を受け継いで形成された、いわば企業の歴史が集大成された結果です。組織のナレッジは、いわば地層が作られるように、社員の一人ひとりが、日々、少しずつ記憶が蓄積された結果なのです。かつての日本型経営は、このような組織のナレッジを持続的に発展させるという点で、たいへんうまく機能してきました。

 そこでは、秩序や一貫性を創り出す「マネジメント」が重視されました。社内の人々の提案を取り入れることによって、品質や生産性の向上が恒常的に図られてきました。しかし、そのようなマネジメントからは、少しずつの変化、つまり「改善」は生み出されやすいものの、大きなブレークスルーをもたらすような創造的変化を期待するのは容易ではありません。その限界をいかにして打ち破るかというところに、今日の企業が直面している大きなチャレンジが存在しています。